S.I.V.A所属のハウンドには、定期的に物資の支給が行われる。それは生活必需品であったり武器の強化生産に必要な素材であったりと様々だが、特にハウンド達が楽しみにしている物がある。


「うん、結構いい感じ!」
「そうですね。よく似合っていると思います」
「貴女こそ。エスコートをお願いしたいくらいよ」
採寸のために更衣室で仮縫い状態の服に袖を通しているのは、アンナとエレナだ。方や革で出来たコルセットドレスに身を包み、方やピンストライプが入ったスーツを着用している。
髪型も普段とは異なるが、そこは高品質なウィッグのなせる技である。休憩にと更衣室から並んで出た彼女たちは、同じくして真逆の男子更衣室から出てきたチームメイトとはち合わせた。
「お、そっちも休憩かい?」
「ええ。……サイード、あなた随分若々しくなったわね」
「フッフッフ、まだまだ若いもんには負けてらんねえって事さ」
得意げに笑みを浮かべた中年の男は普段であれば後ろ髪だけを伸ばし髪を逆立てているのだが、今日は全体的に緩くパーマがかかっており長さは襟足にも至っていない。
服も随分とカジュアルなデザインのパーカーを着用しており、色の明るさも相まって若々しい印象を抱かせる。
「ま、俺よりスゲェのがいるんだけどよ」
「?」
楽しげに背中側に目を向けるサイードの視線の先には、背中の中程まで柔らかな金髪を伸ばした少年がいた。
しかし彼が身に着けているのはフリルやレース、ギャザーがたっぷりと使用されたドレスワンピースで、何の事情も知らない人間が見れば可愛らしい少女のように見えただろう。
「……」
視線の中心にいる少年は少し拗ねたような口調で、ドレスの裾をつまみ上げた。
「ねぇ、S.I.V.Aの被服班てさ、変態しかいないの?普通ストップかかるでしょ?ユカタの時もそうだったけどさ、なんで誰も止めないの?」
トコトコと三人の前に現れた少女の中身は、紛れもない男の子である。確かに第二次性徴はまだ見られないが、それでも女子に間違われることなど屈辱以外に有り得ない。
「まぁまぁ。似合ってますよ」
「嬉しくないし」
「アップルサイダー、ご馳走してあげるわよ?」
「……別に。どうしてもって言うなら誘われてあげる」
「それは光栄です」
不満げな態度に変わりはないものの、同僚からの誘いを断り切るほどに機嫌が悪いわけではないようだ。
エレナとアンナは内心ガッツポーズを取ると少年、アレックスの両手を取る。
「では行きましょう。足下に気を付けてください」
「わかってるって」
「妹が増えたみたいで嬉しいわ。あ、サイード、また後でね」
「おう。…………さて」
美少女達がその場を去ってから一呼吸置いた後、サイードは再び更衣室の中へと戻る。そして部屋のほぼ中央に設置されているパイプ椅子には、心底不満げな表情を浮かべている少年が座っていた。
「いい加減機嫌直せよ、な?」
「……あァ?」
普段伸ばしっぱなしになっている赤毛は丁寧に整えられ、高い位置に結われている。前髪も眉の少し下ほどで切り揃えられ、サイドからは計算されたように残された髪が細い輪郭を隠している。
それだけならまだしも、彼が今身に着けている服は随分と装飾過多だった。ストライプが入ったネクタイは蝶結びになっており、アドミラルをモチーフとした刺繍が入ったジャケットに合わせたブラウスは眩暈がするほどフリルを多用している。
ついでに。そんな上半身に合わせられた下半身にはプリーツが折られたスカートが着けられていた。
もうすぐ成人を迎える少年の下半身に、だ。
「オレぁアレックスの意見に賛成だぜ?こんなアホらしい服造りやがった奴の顔、ブン殴ってやりたくてウズウズしてんだ」
「似合ってんだがねぇ」
「アンタ、先に殴られてぇみたいだな」
元から同年代の同性に比べ華奢な体躯をしているので、見方によっては背の高い筋張った体つきの少女に見えなくもない。
不満を隠さない少年は椅子から立ち上がるとサイードに近付き、睨み上げた。
「んな恐ぇ顔すんなって。別嬪さんが台無しじゃねぇか」
「ケッ。もう試着は終わったんだ、脱がせてもらうぜ」
「クライブ、お前はお披露目に行かねえのか?」
「やなこった、めんどくせぇ」
踵を返した少年、クライブは脱ぎ散らかした普段着を拾い上げると、しっかりと柄が織られているネクタイの足を引く。
粗雑にネクタイを放り捨てた後は、アンティーク調のアクセサリーを外し無駄に数の多いボタンに手を掛けた。
サイードはそんな彼の横に位置取りを行い、普段は目にすることの出来ない項へそっと指を這わす。
「ま、確かに。弱点を晒すのは得策じゃねぇな」
「っ!」
皮膚の薄い、また人体の急所でもある場所を不意に撫でられたクライブは派手に体を反らし、ボタンを外していた手が止まった。
その反応を愉快に思ったサイードは項を撫でていた指で、形の良い彼の耳の輪郭を撫でる。
「俺としても、お前がちょっと触られたぐれぇでこんな顔晒すの知られるのはなぁ」
「……っ、触んじゃねぇよ!大体、誰のせいだと思ってやがる!」
「元々あった才能を伸ばしてやっただけだよ、オジサンは」
堅く節くれ立った指がその見た目によらない丁寧な触れ方をする所為で、クライブの背筋には電流が走る。
それは慣れていない場所を触れられるから、と言うより、眠っていた欲を起こすためと言った方が正しいだろう。
クライブは肩を竦め手から逃れようとするものの、サイードがいつの間にやら回していた腕で腰を抱えられ身動きを取ることが出来なくなった。
「くっ、そ!イイ年こいて昼間っから」
「生涯現役、ってな」
彼が腕の中で動く度に揺れる赤毛がサイードの顎を掠め、こそばゆい。半端に乱れたブラウスの隙間に手を差し込んだ男は、背を丸め少年の耳を甘く噛んだ。
「っ!」
びく、と一際大きく身体を震わせたクライブは、唇を噛んで漏れる声を耐えた。噛まれた場所からじんじんと広がる何かは、確実に彼の理性を崩してしまう。
その。彼が耐える様を愉しいと思うサイードは、わざとらしく音を立てて軟骨から耳朶まで。外耳を散々舐め上げた。
クライブの腕は自らの体幹を探る腕を制止する動きから崩れ落ちないように男に縋る動きに変わり、なぶられた耳は赤く染まり上がる。
耳だけではない。首から上全体が紅潮し、羞恥からか青い眼は涙を湛えていた。
着実に『出来上がり』始めている彼の様子にサイードは更に機嫌を上向かせ、ブラウスの下にある彼の充血した突起を押しつぶす。
「ぅあ、っ、あ」
潰し、こねて、引っ掻く。熱で腫れ、敏感になった粘膜を擦られた彼は堪えきれず声を漏らし、身体を前へと折り曲げる。
だらしなく身体の中心が持ち上がることに屈辱を覚えながらも、臀部に当たる異物感には唾液を飲み込んだ。
「ん?どうした、これが欲しいってか」
その些細な変化を見逃すほど、サイードは甘くはない。半ば反り返った自らの根を衣服越しに擦り当てて、性交の真似事をしてみせる。
彼から与えられる快感の味を知っているクライブは、それに抗う術を知らない。
耳元で獰猛な呼吸を感じながら、少年はこくりと頷き身体の力を抜いてしまった。
サイードは少しの物足りなさを覚えながらも、完全に籠絡してしまったクライブに耳打ちをする。
「だったらほら、言わなきゃならねえことがあるだろ?せっかく可愛らしい服着てんだ、オジサンに良く解るように教えてくれや」
「っ、は……?!」
普段であれば、クライブが態度で負けを表せばそれで彼の責め苦は終わる。しかし今日に限っては、降伏宣言まで行えと言う。
それもこれもすべて、この装飾過多な服の所為に違いがない。
クライブは一度歯を食いしばると、サイードの腕から自らの両手を離し、代わりにスカートの裾を持ち上げた。
現れたのは、どこにでもある至って平凡な、濃いグレーのボクサーパンツである。
「なんだ、下は女モンじゃねえのか」
「ったり、めー、だろ……」
落胆した様子の男の発言に呆れを含めて返すものの、その彼から与えられる浅ましい刺激に飢えていることも、紛れもない事実だ。
下着をずるずると腿の中程まで下げたクライブはサイードの根に尻の肉を擦り付けながら、少しばかり上擦った声で嘆願する。
「……な、オッサンのデッケェので、いつもみてぇに、ケツ、めっちゃくちゃにしてくれよ……。腹ン中疼いて、ヤベェんだって……」
形の良い引き締まった尻の輪郭が良く分かるようにたくし上げ、甘ったるく媚びた言葉が吐きだされた。
自らの半分ほどしか生きていない少年が堕ちる様が酷く情欲を掻き立てるのは、背徳感が小指の爪先ほど含まれているからに違いない。
「よぉーし、いい子だ」
サイードは軽くクライブの頭を撫でると、指に唾液をたっぷりと絡ませ。少年の後孔へと塗り付けた。
S.I.V.Aでこういった関係になる前から彼は男の経験があったようで、その粘膜は案外すんなりと解れ男の指を受け入れる。
「ぁ、あ¨っ、あっ!」
刺激の所為でバランスを崩したクライブは空になったハンガーが大量に掛けられたラックに縋った。
かしゃん、と揺れる音が部屋に響いたが、すでに二人の耳には届いていない。
「ちゃんと立ってな。折角の服が汚れねえくらいの気遣いはしてやるからよ」
「ぅ、あ、……ん、っ、……っぐ」
まずは一本。次に二本と指の数を増やす度に体内の温度が上がり、異物を排除しようと腸液が垂れ落ちる。
広げられた粘膜の中で濡れた指同士の絡まる音が部屋中に響いているようで、クライブは思考を停止させた。
「あ、ぁ、っヤベ、い、ぅっ、あ」
細い太股はがくがくと揺れ、サイードが指を出し入れする度に粘膜がめくれ上がるほど吸い付いてくる。
このまま前立腺を擦り上げてやれば指だけで絶頂させられるだろうが、それでは面白味がない。サイードは一度舌なめずりをすると自らの下肢を露わにし、下着の中で窮屈そうに収まっていた根を取り出した。
一旦指を引き抜き、彼の体躯同様逞しく腫れた根の先端をあてがえば、異物を失った入口が嬉しそうに吸い付いた。
立っているのがやっとと言う状態のクライブの腰を掴んだサイードは、すっかり汗で湿った彼の項を舐め上げる。
「っ!」
ぞく、と。走った寒気に似た快感にクライブが背中を反らせた直後、張った笠と太い幹が一気にねじ込まれた。
脳まで突き上げられるかと恐怖を覚えるほどの衝撃の直後に彼を襲ったのは、快感だ。
「あ、あ、あ、っ、は、やべ、あ、ぁー……っ!」
サイードの根が粘膜を抉る度に灼け付くような快感が脳に伝わり、溢れた涙と唾液がはたはたと床に落ちる。
規則正しく肌と肌がぶつかる音が部屋に響き、音の数だけ喘ぎも漏れた。先程まで行為を渋っていたとは思えないほどに乱れたクライブを見て、サイードは口角を上げる。
「オイ、オイ。すげえ、ヨガり方、だな?」
「ん、ぁ、だ、って、気持ち、イイし、ぁ」
律動の度に途切れる単語で会話をした後、少年を無理矢理に振り向かせ唇に喰らいつく。更に律動を続ければ切なげな息が彼の形の良い鼻から漏れ、サイードの頬を擽った。
こみ上げる唾液を互いに絡ませながら、下腹は相変わらずに繋がり快感を生み出している。
少年自身の根もすっかり立ち上がり先走りを垂らしているが、男がそれに刺激を与える素振りは見られなかった。
突き上げられる熱だけでは追い詰めきるには足りていない。そう判断したクライブが自らを慰めようと手を伸ばしてみるものの。
「なに、イジろうと、してんだ?こんな、可愛い、服、着た、嬢ちゃんが」
「……っ!!」
サイードの手がそれを阻んだ。
汗と涙と唾液で顔中を濡らしながら、クライブは意地悪げに笑むサイードに視線を送る。
身体の一番奥を暴かれた状態では最早牙を剥くことも出来ず、泣きじゃくる子供のように。クライブは素直に訴えた。
「っ、キてぇ、んだ、よ!も、早く、はや、くっ!」
「がっつくねぇ」
笑うサイードに対し怒りを覚えないではないが、彼はクライブの強がりなど簡単に見抜きどうしようも無くなるまで苛めて来る。
だったら、馬鹿にされようが素直に降伏するのが結局のところ一番楽なのだ。
「はいはい、わかったよ」
会話の最中に放って置かれていた彼の体内は熱を抱えたまま、ぐずぐずと蕩けている。ぬかるんだ肉をかき混ぜるように男が律動を再開すると、悲鳴のような声がクライブの細い喉を鳴らした。
整えられていた髪はすっかり乱れ汗で肌に貼り付き、淫らな匂いが立ち上る。
「前イジらなくてもイけるくらい、な」
「ぅあっ、あ¨っ、ぁっ?!」
ごり、と。膨れた先端が結腸に到達しても律動は休まることなく、クライブの後孔は既に排泄器官の役割を忘れ快楽を貪るだけの場所になった。
青い眼の焦点は定まらないまま、強すぎる快楽から淀んでいる。
小刻みに、時々思い出したように最奥を突く度に少年は徐々に限界へと追い詰められた。
「ぁ?あ、っイ、っ!……っあ¨……」
窮まり、大きく目を見開いたクライブは小さく声を漏らし。それが限界だった。
細くしなやかな身体は何度も痙攣し体内もそれに反応してサイードの根に食らいつく。
「っ、」
ごくりと唾液を飲んだサイードはクライブの根の先を指先で包み込むと、その吐き出された遺伝子を受け止め。代わりと言わんばかりに粘度の高い遺伝子を注ぎ込んだ。
その感触すら心地良いのか。余韻に浸りながら大きく呼吸を繰り返す少年の身体は、時折ぴくりと戦慄いた。
サイードは繋がったままに空いた片手でクライブの根を指の輪で締め上げると、残り滓すら許さないと言わんばかりに搾り上げる。
「あ¨?!っめ、や、あ¨っ!!」
敏感になった場所を不意に締め上げられたクライブは再び身体を仰け反らせるが、男は顔色一つ変えずに亀頭の括れまでを搾りきった。
片手には吐き出され、また搾られることで溜まった精液が溜まっている。サイードの意図が分からないクライブは熱でぼやけたままに解放感に身を委ねていれば、男の両の手は彼の下腹から離れた。
そして。
「よーし、飲め飲め。零すんじゃねえぞ」
「ンぶ、ぐっ?!」
片手は少年の顎を固定し、片手の平は少年の口を蓋のように覆う。生臭い匂いが呼吸器と味覚を犯し吐き気がこみ上げるが、男は拘束を緩めない。
これが彼の言う『服を汚さない配慮』だと気付いたのは、身体の熱が冷めきった数十分後のことだった。




「あれ、クライブさんは新しい服着ないんですか?」
「あァ?」
「……すみません、何でもないです」
数時間後、共有の休憩スペースにて。
新しい服に袖を通しはしゃいでいる面々に交ざることなく、クライブは仏頂面のままでいた。
触らぬ神になんとやら、の言葉通り、彼の態度から不穏な何かを感じ取った後輩の少年は深く追求することなく輪の中へと戻る。
そして彼から大分離れたスペース隅のテーブルでは、サイードとアンナが雑談を交わしていた。
「クライブったら機嫌悪いわね。……あなた一体、何したのよ?」
「んー……、そうだねぇ」
サイードは苦笑しながら自らの左頬を覆うガーゼに手を当てた。彼に彼の排泄物を無理矢理飲み込ませた後、冷静を取り戻した彼に手痛い一撃を受けたのだ。
しかしその様なことを同僚に話すことも出来ないので、未だ湯気を立ち上らせているブラックコーヒーを口に含むことで茶を濁す。
「ま、ナニかってとこだな」
「あっそう……」
あくまでも話すつもりのないサイードの態度に呆れを見せながら、アンナは溜息を吐く。
クライブの機嫌が完全に戻ったのは、一週間後のことだった。










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