俺は今猛烈に緊張している。この一言だけ見るとこいつは何をふざけてるんだと思われるかもしれない。だが他に言葉は見つからない、俺は今猛烈に緊張している。猛烈にというのがどの程度を表しているのかというと俺の大好きな卵焼きとタコさんウインナーが喉を通らないくらいだ。きっとサッカー部の連中が見たらどうした病気かと心配するに違いない。食べなければ身体に悪いと分かってはいるが胸がきゅうきゅうと苦しくて食べても気持ち悪くなる。まるで恋する乙女のような…そう、今の俺は恋する乙女状態なんだ。

相手の名前も学年も知らない、ただ俺が当番の日に決まって本を借りに来る彼女。俺は見ていられるだけでも充分満足なんだがあまりにも進展が無いからか唯一俺の恋愛相談を真面目に聞いてくれる佐久間に今日こそは話し掛けろと言われた。彼女はどんな風に笑うんだろう、どんなものがすきなんだろうなんて考えていたら胸のどきどきが止まなくなって食欲が無くなったってわけだ。もしこれを女が言っているならかわいいの一言で済んだんだろう。だが思春期の男子中学生がこんな事を考えているのだと思うと自分でも少し気持ちが悪くなってくる。いや、かなりの間違いか。

「あの、これ借りたいんですけど…!」

肩がびくりと震えた。顔を上げるとそこには俺が想いを寄せている彼女の姿。多分何度も呼ばれていたんだと思う。ああ、俺は今どんな顔をしていたんだ恥ずかしいなんて思いつつもはいと一言返し彼女から本を受け取った。表紙へ目を向けると彼女が俺に差し出したその本は俺の大好きなサッカー雑誌。それを見た俺は無意識の内に彼女に話し掛けていた。

「あ、っと、サッカー好きなのか?」
「え…あ、お兄ちゃんがサッカーやってて、それで借りて来てって頼まれて…」
「あ、ああ…そうなのか」
「はい…」

会話を続けなければ、そう思いつつも口から出てくる言葉は今日はいい天気だなとか最近調子はどうだとか…俺はじいさんか。調子はどうだって知らない相手に聞かれたら気味が悪くないか。脳内では冷静に突っ込みつつも口から出る言葉は今朝見たニュースの話などやっぱりじいさんだ。気まずい空気に耐え切れなくなったのか彼女はじゃあ私そろそろ行きますねと言い俺に背を向けた。

「あ……あのっ!」

言葉を紡いだのは俺。くるりとこちらを振り向く彼女は少し驚いたような表情を浮かべていた。俺自身もこんなに女々しい声が出た事に驚いている。だが今日を逃したらもうチャンスは無い。

「よ、よかったらメアド教えてくれないか?」
「え…?」
「嫌だったら断ってくれても全然構わない」
「い、嫌じゃないです!」

全力で嫌じゃないと否定しながらそそくさと鞄から携帯を取り出すとじゃあ赤外線で送りますねと言う彼女。かちかちと携帯のボタンを押す一つ一つの動作がとても長く感じた。彼女が真ん中のボタンを押したのと同時に俺の携帯画面には受信が完了しましたの文字。

「えっと…送信、出来ました」
「あ…ああ、ありがとな」

この本明日返しに来ますね、そう言いながら彼女は図書室を後にした。未だに心臓がどきどきしてるのが分かる。早速彼女にメールをしようと携帯画面に目を向けるとそこに映し出されていた文字は”受信が完了しました。佐久間名前を登録しますか?”

「……あ」


(おい佐久間)(あ、源田。お前今日から俺の弟な、兄ちゃんの命令は絶対な。ペンギンアイス買って来い)(お、弟…?って事は俺と名前が夫婦……分かった買って来よう)




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