マークは印付けではありませんイケメソです | ナノ



 ふと気づく、今日は士郎が帰って来る日だ。何かご馳走をしなければ。どうしようか、士郎はきっと疲れているだろうから甘いものにしよう。カレンダーにばつ印がついてあって僕が帰って来る日と可愛らしい字で書いてあるのが目についた。ご馳走をして士郎が喜んでくれればいいなあと内心待ち遠しくなりながら、コンロの火をつける。まだ五時だから、ゆっくり愛情を込めて作ろう、なんて。久々に会う士郎はまた、大人になっているのかな。士郎は久しく帰って来るたびに大人になった雰囲気がして、抱きしめる力とか、優しい匂いとか。全てが私を癒してくれる。とても愛しくなる。こんなにも幸せなことはないだろう。野菜がしゃきっといい音を出して切れる。水々しくて美味しそうだ。士郎にはやっぱり出来立てを食べて欲しいし、新鮮な食材で疲れた体を癒して欲しい。私が出来る事はそれだけだと思うから。何だか悲しくなったけど、気にしない気にしないっ。ちらりと時計を見る。あれ、もう六時だ。遅く煮込みすぎてしまった。これでは遅れて士郎を待たせてしまうかもしれない。火をさっきより強火にする。

すると、髪が少し靡いた。おかしい、窓は開けていないのに。もしかし、て。「いい匂いすると思ったら、今日はご馳走だね」やっぱり。士郎だった。士郎はよく足音も立てずにいきなり私の傍にいる事が多い。今日だって、そうだ。正直心臓に悪いからやめてほしいと言ったのに。ああ、その前に夕食が出来上がっていなかった。申し訳ない気持ちで士郎に謝る。「ごめんね、まだ出来上がってないの」出来立てで、帰ってきた時直ぐに食べれるようにしたかったのに。ひとつため息が出る。「なんで謝るの? 僕は君がいれば十分だよ」その優しさに、いつも私は守られている。でも、だって、それ以外に私が士郎を癒す事が出来ないと、思って。「私は士郎の疲れをとることができないから、せめて料理を美味しく味わって欲しくて、でも、」遅くなっちゃった。最後がいえなかった。いえることが出来なかった。言葉を発すると、視界が歪んで声が震えそうになったから。駄目だ、泣いてはいけない。士郎に迷惑をかけちゃ駄目。泣くな、引っ込んで。

「…はあ。名前は優しすぎるよ」

「そんなこと、ない」

「あのね聞いて。僕は名前がいれば十分なの。悲しい時とか苦しいとき電話したらいつも優しい声が聞こえるたびに頑張ろうって思える。辛い時はいつも傍にいてくれる。それだけで僕はすごく、救われてるんだから。だから、泣かないで」


ごめんね士郎。ごめんね。私はもう耐え切れなくなってしまった。士郎に抱き寄せられて骨ばった綺麗な手で私の頭を撫でる。私より身長が大きい士郎の体は温もりがあってぎゅっと力を込められる。恋しくて、嬉しくて。士郎の言葉に私もすごく救われた。ううん、今までずっと救われているんだ。私も士郎を救っていたんだと思うと涙がまた溢れ出した。「ありがとう、士郎」出来るだけ、一番の笑顔を浮かべる。涙でもしかしたら歪んでたかもしれない。それでも、この気持ちを受け取って欲しかった。士郎もまた私にとびきりの笑顔を見せた。

「あ、料理忘れてたね。出来てるから持ってくるね」

「うん、ありがとう」

士郎が椅子にすわる。やっぱりさっき言ったとおり士郎はまた一段と大人になった気がする。身長が伸びたのもそうだけど、雰囲気とか顔つきとか。蒸気がでていたので鍋のふたをあける、ふわり、といい匂いが部屋中にいきわたる。士郎と目があうとにっこりと笑って「いい匂いがするね。はやく食べよう」だけど性格は子どもみたいで。可愛らしい声で私をせかせる。ほんとうに士郎には叶わない。くすりと笑って鍋をテーブルにおく。早速士郎は置いてあった食器に入れて、ふーふーと息をかけてからひと口で食べる。するとふにゃりと笑って口をもごもごさせながら、美味しいという。私も士郎が食べたのを見た後に食器に入れて食べる。よかった、今日は美味しくできた方だ。そういえば、士郎に言ってなかったなあ。

「士郎。」

「なあに?」

「お帰り、」










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大人の士郎
あーちゃんにfor you



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