涼野だって長袖着れるもん☆ | ナノ
ぼくがまわるときみがわらう
士郎がフォワードかディフェンスにしかなれないなら、私はあなたのミッドフィルダーになるよ、名前は至極真面目そうな顔でそう言った。彼女の小さな両手が心なしか熱い。
「それは…どういう意味?」
「そのまんまの意味」
どうやら彼女が冗談で言っているわけじゃないことはわかった。でもその意味が僕にはわからない。「だから」名前が握った手を強くした。
「どんな士郎でも私は味方ってこと」
名前は昔からおかしな子だった。僕とアツヤがサッカーをしているときも、その中に入らずただ笑って僕たちを見つめていた。本当に楽しそうに笑っていた。実のところ、僕はその顔が好きではなかった。ただ見ているだけで楽しいだなんて、当時の僕には理解しがたいことだったのだ。 名前はアツヤがいなくなってしまったあともずっと僕の隣にいた。いつのまにか僕の隣はアツヤではなく名前になっていた。そしてこれからもそれは変わらないだろうと、未だにまじめな顔をしている彼女を見てただ漠然と感じるのだ。
「でもそんなこと、言葉でなら何とでも言えるよ。それだけじゃ名前を信じられない」
「そうかな。私は言葉にしなきゃ伝わらないことだってあると思うよ」
「たとえば?」
「たとえば…」
そこで名前は口をつぐんだ。ほら信じられないじゃないか。彼女の悩む姿を見て内心せせら笑う。所詮人間なんてひとつの個体に過ぎないんだ。どんなに言葉で伝えたって形にしなきゃ意味がない。僕はマフラーの端を強く強くアツヤを思い描きながらきつく握った。「ねえ、士郎」静かな水面に落とされた滴のように、見る間に心の奥底へ広がっていった彼女の声にはっとしてわずかに目を見開いて振り向けば、あのあまり好きではない笑顔をした名前が、俺をじんわりと見据えていた。
「私は、士郎のことがね…好きだよ」
今この瞬間、彼女の笑顔の意味がやっと理解できた僕は、見えない何かを無性に繋ぎ止めたくなった。
あずちゃんへ!
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