最近、あるサッカー部の男の子から目が離せなくなってきた。私にも何でなのかはわからない。気づいたら目で追ってしまうのだ。彼の名は、一之瀬一哉くん。最近この雷門中にアメリカから転校してきた所謂、帰国子女。彼の周りにはいつも男女問わず人が集まっていて、ほとんどのクラスの子が一之瀬くんの周りに壁となって立ちはだかっていた。結局、彼と話すチャンスは一度も訪れてこなかった。


「それはね、恋だよ」そう友達に言われても『恋』というのがよく分からなかった。素直にそう言ったら、呆れたように溜息をつかれてから「恋っていうのは、誰かを好きになるってことだよ。例えば、胸がドキドキしたり気づいたら目で追ってたりとか」と、教えてもらった。気づいたら目で追ってる…それって今の私のことだ。それじゃ、私、一之瀬くんに恋、してるの…?


そんな会話もあって前よりも一之瀬くんのことを意識するようになってしまった。でも、たぶん一之瀬くんは私のことなんとも思ってないんだろうな。だって、未だ話したことないんだもん、私の存在にすら気づいてないんじゃないかな。そう思うと胸がズキズキと痛む。なんだろう…病気かな?


「あれ?どうしたの」

「えっ、あ、い、一之瀬くん!?」


急に声をかけられて振り返ればそこに居たのは一之瀬くんじゃないか。ど、どうしよう…なにを話せばいいのか分からないよ。戸惑ってる私を見てなんでか一之瀬くんはクスクスと笑ってた。「ごめんね、つい面白くて」「面白かった、の?」なんて思ったことを口に出したら、さっきよりも少し大きな声で笑う一之瀬くん。なんだか、穴があったら今すぐにでも入りたいほど恥ずかしい。


「俺が思ってたよりも、すごい面白い子だったよ」

「そ、そうかな」

「うん。いつも見てたからね、大人しそうな子だなって思ってたんだ」


えっ?と思って一之瀬くんの顔を見ると爽やかな笑顔を浮かべていた。たぶん意味なんてないと思うのに、胸がドキドキする。やっぱり、私は一之瀬くんに恋してるみたい。「そう、なんだ」結局、恥ずかしくて答えるのが精一杯で短くてそっけないような返事をしてしまった。感じ悪い子だって嫌われちゃったかな。だけど、一之瀬くんは特に気にすることもなく笑顔のまま「うん、そうだよ」と頷いてくれた。


「私はね、予想通りだったよ」

「予想通り、ってことは俺のこと見ててくれてたんだ」


顔が熱い、きっとリンゴみたいに真っ赤になってるんだろうな。「いつも、見て、たよ」途切れ途切れになりながらもなんとか言葉を紡ぐ。一之瀬くんは、大きな瞳をさらに大きくしてじっと見つめていた。いけなかったかな、と思って「ご、ごめんね!嫌だったよね?」と謝ったら「うん、嫌だった」真面目な顔で言われて胸が心がズキズキと痛んだ。あぁ、やっぱり。そりゃ、そうだよね。私みたいな子がいつも見てるなんて嫌だよね。じわり、と涙が溢れてくる。


「だって、ずっと見ててくれたなら声かけてほしかったからね」


一之瀬くんは、不貞腐れたような拗ねたような口調で話してから、ようやく、私が泣いてることに気づいたのか慌てたように「どうしたの」と訊いてくる。私は、一之瀬くんに表情が見えないように俯いて「一之瀬くんの、せいだよ」ぽつり、そういうと「それじゃ、責任取らなくちゃだね」と言うから、せっかく表情を見せないように自分からしてたのに顔をあげてしまった。そのせいで一之瀬くんの真剣そうな表情にドキドキして次の言葉を待つことになってしまった。



「俺と付き合ってください」



(Dear.空ちゃんへ)





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