第6話


[良ければ2人で食事でもどう?都合つく日あれば教えてくれると嬉しいな]

あの合コンからそう日を置かないうちに、そこで知り合って意気投合した男性から食事のお誘いがきた。金曜日は不死川先生とのご飯だから、それ以外だなと考え、金曜日以外ならと送る。すぐに返事が来て、ご飯屋さんと思しきURLが送られてきた。

[ここ、ピザがすごく美味しいんだ。嫌じゃなければここどうかな?]
[いいですね。美味しそう]

呑み会の時にピザが好きだと話したのを覚えていてくれたのだろう。ネットを見ればメニューが豊富で口コミも良いので期待できる。
こうして日時のやり取りをしたのが日曜日のことである。


そして水曜日の今日は男性と食事に行く日だ。
前回とは違い2人とも明日は確実に仕事だ。そう遅くなることはないだろう。だが、もしかしたらという事があるかもしれないと、おろしたての下着を着用してきてしまった。そんな期待をほのかに抱く事に呆れる自分もいたが、万全は期したい。チャンスは準備された心に降り立つというではないか。
相手が好意を持ってくれているのはメッセージのやり取りでも明白である。そして顔もわりと私好みだ。加えて、単純な私は好意を寄せられたことにより、相手に対して好意が芽生え始めている自覚もあるのだ。
つまりは、自分次第である。


仕事をキッチリ終わらせ、学校のお手洗いで化粧をささっと直す。更衣室にて汚れてもいい仕事用パンツから控えめな花柄のスカートに履き替えれば、準備は整った。いざ!

と、足取り軽くお店に向かったものの、数時間後、お店から出て1人で自宅に帰る時の足取りは、とぼとぼと効果音がつきそうであった。


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「名字先生!先週の合コンはどうだったか?良き出会いはあったのだろうか!」

3人で過ごすいつもの金曜日のお昼時。唐突に煉獄先生に聞かれた。

「はぁ。まぁ、そうですね。いいなーと思える人はいたんですが」
「ほう!」
「へェ...」
「それでその人と水曜日に食事に行ったんです」
「はァ?もうそこまで進んでたんか」
不死川先生がギョッと目を丸くする。そんなに意外だったろうか。

「それでどうした!付き合うことになったのか」
「あー、それが...」

食事自体はとても楽しかった。会ったら今日の服装も可愛いね、とストレートに言われ嬉しくなった。
お店の雰囲気も良く、チーズが濃厚でピザもとても美味しかった。
会話も途切れることなく進み、やっぱりこの人いいなと楽しい時間を過ごしていた。のだが。

共通の話題である本の話になった時、問題が起きた。

「最近なかなか本を読む時間がなくてさ。読みたい気持ちはあるんだけどね」
「お忙しいんですね」

そこから男性が今抱えているプロジェクトの話しになったが、自分の知らない世界を伺い知ることが出来て興味深く聞いていた。時には質問したりする私のその姿勢に、気を良くしたのだろう。多少なりともアルコールが入っていたせいもあるのかもしれない。

「その点、名前ちゃんはいいよね。本を読むのが仕事でしょ?」
「まぁ、それだけが仕事ではないですが..そうですね」

確かに新刊本や企画コーナーの本には目を通す。それだって内容を聞かれた際に答えられるようにするためであり、好きな本を好きな時に読むわけではない。
やんわりとそれを告げるも、男性は止まらない。
「でもさ、俺が高校の時の先生は本読んでるだけだったよ?あれで金が貰えるなんて、楽な仕事でいいよね」

誰にでもできる仕事っていうの?

その言葉で冷や水をぶっ掛けられたような気がして一気に冷静になる。冷静どころか氷点下を下回っていることに相手は気が付いていない。
次第に沸々と怒りが沸いてきてすぐにでも帰りたい気持ちになったが、大人なのでそこは我慢した。その後は会話を楽しむこともなく、ただ男性の発する言葉に相槌を打つだけの機械となっていた。

さすがー
知らなかったー
すごーい
センスありますねー
そうなんですねー

合コンさしすせそとはよく言ったものである。

それを額面通りに受け、気を良くしたのか2人きりになれる所に移動しようか。と誘われるも、明日早いのでと頑なに断り、ここは奢るよという言葉も突っぱねて半額と思しき額を半ば強引に渡して帰宅したのだった。


「てな事がありまして。自分の仕事をバカにされるのは、本当にイヤなんですよね。その時点で100年の恋も冷めるというか」
「むぅ...確かにそれは頂けないな!名字先生の本に対する並々ならぬ情熱と知識量は凄いと思っているぞ!」
「煉獄先生...ありがとうございます」

煉獄先生のその言葉に不覚にも目がウルウルしてきてたが、本気で泣いたら心配を掛けてしまうのでなんとかグッと堪えた。

「まぁ、相手がそんな奴だって早く知れて良かったじゃねぇかァ?」
「まぁ、そうなんですけど...そうなんですけどね。傷が浅いとはいえ、好意をガンガン伝えられて、私も好きになり掛けていたので」
「...は?」
「自分で言うのもなんですが、好意を伝えられるとコロッといっちゃうタイプでして...」
「チョロ過ぎないか!」
「チョロ過ぎだろ...」

おいおい大丈夫かよと心配そうな2人の顔を見て、慌ててフォローする。

「チョロいのは自覚しているので!これからは気をつけます!簡単に好きにならないように気をつけるつもりです!」
「よし、分かった!名字先生に好いた男ができたらまず俺に紹介してくれ!俺が人となりを判断しよう!」
「親父かよ」

不死川先生の呆れた突っ込みに笑えば、モヤモヤが霧散していくようだった。こういう時間が有ることに感謝してお昼ご飯を終えたのだった。

そして迎えた定時後、私は更衣室の自分のロッカーを前にして悩んでいた。何に悩んでいるかというと、服を着替えるべきかでだ。
今日は体を動かす業務中心だったので、下はパンツ姿だ。念のためとスカートを持ってきてはいたのが、履き替えるべきだろうか。この前のような花柄スカートではなく、無地なので控えめではある。
が、昼間とは違う姿を見て勝手に期待されても困るわ。と不死川先生に思われるのは嫌だ。かといってこの色気もないパンツ姿で行くのはどうなんだろう。

しばらく悩み、結局着替える事にした。本棚の埃取りをしたから、よく見ればちょっと汚れている。それに1年上の先輩と、ただの親睦を深めるご飯だったとしても、それなりの格好をするのが礼儀ではないだろうか。そうだそうだ、と自分に言い聞かせるようにして着替え始めたのだった。


20210509


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