第5話


久々に臨んだ合コンは端的に言えば、楽しかった。

最初こそ緊張していたものの、相手の男性陣は物腰も柔らかく、話し上手で聞き上手であった。グラスが空きそうになるとスッとメニューを差し出してくれるし、店員を呼ぶためのボタンを探している事にいち早く気付き、ボタンを押してくれるなど気遣いができる人達であった。男性陣は皆同じ会社の営業職だと言っていたが、やはり営業は人当たりが良くこうでないとやっていけないのだなと感じ入った。
その中でも1人の男性とは、よく本を読む上好きな作家が同じということで意気投合した。

「他にもオススメな本があったら教えてよ」
「できれば本だけじゃなくて、名前ちゃんの事も少しずつ教えてくれたら嬉しい」

なんてお酒が入っているせいなのか、頬を少し染めて照れ気味に言われれば、単純な私は相手に好意が芽生え始めるのを感じた。我ながらチョロいとは思っている。


飲み放題で予約したあったので2時間程で会はお開きになった。男性陣から二次会に行こうという話も出たが、私以外の女性陣は明日仕事だったので二次会に行くこともなく解散した。
女性陣の幹事が明日仕事の子が多い旨を伝えれば、残念だけどそれなら早めに帰って休んだ方がいいね。またこのメンバーで集まろう。とスマートな気遣いができる点も良かった。
楽しい一時はあっという間に終わり、ほろ酔い気分のまま自宅に着けば、始まる時間が早かった事もあり、21時30分を少し過ぎたところだった。


上着をハンガーに掛け、冷蔵庫からお茶を出して飲む。アルコールで火照った体を冷やすように冷たいお茶が体に浸透していくのを感じ、ほぅっと溜め息をついた。再度お茶を注いだグラスをミニテーブルへと置き、そのまま自分も床に座り込んだ。
鞄からスマホを出せば、チカチカとメッセージランプが点灯しているのに気が付いたので、手に取って確認をすれば先程連絡先を交換した男性であり、無事の帰宅を確認する旨だった。
「マメな人だなぁ」

返事をしてスマホをテーブルの上に置き、代わりにリモコンを手に持つ。テレビを点ければ少し前に話題になった映画が画面に映し出された。どうやら今日のロードショーはこれらしい。気になっていたものの、結局劇場に足を運ばないうちに終了してしまったものだ。
ああ、こんな展開になるのか。それにしても眠いな。良い人達だったけど、やっぱり初対面の人達とああして会うのは気疲れする。もうさっさと寝てしまいたいが、その前にシャワー浴びなきゃなぁ。と取り留めのない事が次々と頭に浮かぶも体はその場にくっついたように離れない。ベッドに背を預けてボーッとテレビを眺め見ているとメッセージの受信を告げる音がした。

先程の男性だろうか。返信早いな。
そう思いながら再度スマホを見れば、そこに出た名前にドキッとした。

不死川先生だ。
トーク画面を開けば、ご飯はいつ食べに行くか。都合良い日はあるかと確認するものだった。
悲しいかな、スケジュール帳を確認するまでもなく私の予定はガラ空きである。
部活動の顧問をやってはいないものの、授業や担任を受け持つ不死川先生の方が圧倒的に仕事量が多いし、残業をよくしていると聞いたことがある。

[本当にいいんでしょうか?昼間の事は気にしていないので、不死川先生も気にしないでください]

少し迷いながらもそう送ればすぐに既読がつき、不死川先生から電話が掛かってきた。
「え、なんで」
どうしよう。あの後即寝落ちして気が付きませんでした。なんて言い訳がこの人に通用するだろうか。出るかどうか散々迷ったものの、一向に鳴り止むことのなさそうな着信音にドキドキしながら電話に出た。

「おせェ」
「す、すみません!」

開口一番にお叱りを受けてしまうが、心の準備が出来ていなかったのだから仕方ないじゃないか。そう思いつつも、相手からは見えないのに居住まいを正してしまう。

「あー...、そういや今日、合コンって言ってたな......取り込み中だったんかァ?」
「いえ、それはもう終わって今は家です」
「えらい早ェな」

少し驚いてる先生に、明日仕事の子が多かったため早めの解散になったことを説明したら納得していた。そして、メッセージのやり取りが面倒だから、電話した。いいから飯食いに行くぞと告げられ、来週の金曜日は空いてるか、食べたい物、行きたいお店はあるかと矢継ぎ早に尋ねられた。
行きたいお店も食べたいものもすぐには思いつかないでいたのでそう正直に言えば、じゃあこっちで適当に決めとくわァと言われた。

これで用件は終えたので、通話を終えるのかと思ったがそのまま切れることなく沈黙が流れた。
気まずいな…電話を切ってもいいだろうか。そんな事を思っていたら、ながら見をしていた映画が意外な展開になったので思わず「あっ」と声が出た。

「なんだ、どうした?」
「あ、すみません。実は今テレビでやってる映画を見ているんですが」

途中から見たとはいえ、人の良さそうな人が裏切った展開に驚いてしまったのだ。そう理由を話せば、不死川先生もたまたま同じ映画を観ていたようで、ああ、これかと反応した。

「不死川先生も映画とか観るんですね」
「まぁ興味を引かれればなァ。あー、最近は下の弟の付き添いで映画に行ったな」

今人気の子供向け映画のタイトルを告げ、応援上映っていうのか?皆で頑張れーって応援しろって言われてビビったわ。
そう話す不死川先生に思わず笑ってしまう。
一見そういうことをやりそうにない人に見えるが、兄弟想いの彼のことだ。きっと弟さんと一緒に声を出し笑いあったのだろう。ちびっ子達に紛れて、画面に向かって大声を出す不死川先生が容易く目に浮かんだので、頬が自然と緩む。

「今変な事考えたろォ」
「いえ!何も!」

まずい、怒られると思ったものの返ってきたのは存外優しい声だった。
「ったく、しゃーねぇーなァ」
フッと笑いながら零す言葉にドキっとしてしまう。
その後は同じ映画を見ながら、電話越しで展開についてあーだこうだと言い合い、先程の裏切った男性も、見てりゃ裏切るってわかるだろ。お前見る目ねェな。なんて言われてしまった。
映画に関連してお互いの自身の事も話していれば、いつの間にかエンドロールが素早く流れ始めた。時間にして1時間ちょっとだろうか。不死川先生とこんなに長く話をしたのは初めてだったが、心地良い時間だった。最初の緊張はどこへやら、もっと話していたいなと思えるくらいだった。

「あー、長々と電話しちまって悪かったな」
「いえ!その...楽しかったです。とても」
「......おう。俺も」

電話を切る間際、戸締まりしっかり確認しろよ、暖かくして寝ろよと言われ、やっぱりお母さんじゃないかと思いながら、ふふっと笑ってしまう。

そんなに飲んでいないはずなのだが、今になってアルコールが回ってきたのだろうか。ふわふわとした気持ちで今度こそシャワーを浴びるために浴室へと向かった。



20210502


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