第4話


日曜日の夜、ベッドに寝転がりながら借りてきた本を夢中で読み進めていれば、スマホからメッセージの受信を告げる音がした。起き上がりスマホを手に取ると、前の職場で仲良くなった人同士で組んでいるグループトークに新着が来ている。

[合コンやるんだけど、興味ある人いるー?]

合コン。
久しく見ていなかった言葉をマジマジと見る。

大学時代から付き合っていた彼氏とは、社会人になって間もなく浮気をされ別れた。
大手企業に内定を貰い社会人として華々しくスタートした彼と、正規職ではないが希望の職種にはなんとか就けた私とでは、私が思っていた以上に溝があったのだろう。
最初はそれでも希望の職種に就けて良かったね。と励ましてくれていた。

だが、大手勤務という肩書きがそうさせるのか、または気が付かなかっただけでそれが彼の本性だったのか。次第に「非正規だと責任取らなくていいからいいよな」「彼氏が大手勤務だからって、自分が正規にならなくてもいいとか思ってないよな?」などと見下す発言が増え、仕舞いには同期と付き合うことになったから別れよう。俺達住む世界が違うんだよ。と言われた。

住む世界ってなんだ。悲しい気持ちよりこんな奴を素敵だと、好きになっていた自分に腹が立ったくらいだ。
その後、念願叶いキメツ学園に就職をしたが、仕事に慣れることが優先だと恋愛は二の次でここまできた。

要するに、合コンは久しぶりなのである。
2年目とはいえ多少の余裕が出来てきたし、何よりもそろそろ彼氏が欲しい。そしてゆくゆくは結婚して授かれるならば子供も欲しいと思っている。
「参加したい!」と返事をすれば、他のメンバーからも参加するメッセージが浮かび上がり、詳細が送られてきた。

決戦は今度の金曜日である。


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煉獄先生と不死川先生とのランチタイムも数回目を数えている。当初は気まずいと思っていた3人での時間も、不死川先生の人となりを知っていくうちに楽しい時間へと変わった。ちょっと怖いなと思う時もあるけれど、実はとても面倒見がよく優しい人であることがわかった今では普通に話せるようになっている。
いつものように3人でお弁当と取り寄せお菓子を囲んでいれば、ふと煉獄先生が気が付いたようにこちらを見た。

「今日はいつもと雰囲気が違うな!」
「どこか変なところありますかね?」

普段と違うと自覚しているのは髪型だ。いつもは髪の毛を後ろで一つに結ぶことが多いのだが、今日はコテで巻いてくるりんぱでハーフアップにしてみた。簡単な編み込みに挑戦したい所だったが時間がなかったため断念した。これだって簡単なヘアアレンジで検索してみたのだが「まずコテで巻きます」の文面に簡単とは?と思いつつも朝の忙しい時間と戦いながら急いでやったのだ。

「いつもと髪型が違うってことしか俺にはわかんねェわ」
「うむ、それだ!」

納得した煉獄先生がポンと手を打つ。女性は髪型一つでも随分印象が違うものだな。似合っているぞ。と煉獄先生ににこりと言われれば、ストレートに誉められることに慣れていないため、なんだがむず痒い気持ちになる。

「ありがとうございます。実は今日合コンがあるので少し気合いをいれてみました」
「は?」

照れくさそうに言えば、不死川先生が心底驚いたという顔をした。そして、徐々に眉間にシワを寄せ始めて不快感を露わにする。何か気に障る事を言ったかな?

「お前よォ...煉獄がいるのに合コン行くってのはどうなんだよ」
「え!?」
「む?」

今度は私と煉獄先生が驚く番だった。
この前もそうだったが、なぜそこで煉獄先生が出てくるのだろうか。
もしかして、もしかしてだけど、実は煉獄先生は私の事を好きで不死川先生はその事を知っているのではないか?
隣にお前の事が好きなやつがいるんだから合コンに行く必要なんてないと怒っているのだろうか。そんなまさか。いやでも。
などと私の脳内は一通り自分に都合がいい妄想が駆け巡り、すぐにそんなわけないないと冷静になった。

「なぜ俺が出てくるんだ?」
「なぜって...お前ら付き合ってるんだろォ?」

誰と誰が?
え、私と煉獄先生が?
付き合っている?

心底わからんという煉獄先生と私を見て、自信がなくなってきたのか「違うのかァ?」と先程よりトーンダウンした声で聞いてくる。

「名字先生とは付き合っていないぞ。同僚として好ましく思っているが、異性としてどうかと聞かれれば今のところ違う!名字先生、気持ちに応えられずに済まない!」
「いやいや!私だって煉獄先生は生徒想いな方でとても尊敬してますけど、異性としてと言われたら今は...というか、なんで告白もしてないのに振られなきゃいけないんですか!」

結構傷つくんですけど!仮に私が煉獄先生と付き合っていたとしても、彼氏持ちなのに合コンに行くような女だと思われていたのがショックだ。こう見えても好きになったら一途なんですけど。そんな不満を不死川先生にぶつければ、少し怯んだ顔をしてすぐにキレ返された。

「あー、悪かったよ!今度飯でも奢ってやらァ!!」
「言いましたね?絶対ですよ!」

興奮のあまり、キレ気味の不死川先生に思わず言い返す。

「不死川はなぜそう思ったんだ?」
「...お前らが付き合ってるって噂が生徒の間で流れてんだよ。実際昼飯一緒に食ってるから俺もそうだと思ってた」

そんな噂が流れているなんて初耳だ。確かに煉獄先生とご飯を食べている姿を、昼休みに図書室に来た生徒達に何度も目撃されているから、そういう噂が流れるのも納得といえば納得である。だが待てよ。

「え、じゃあなんで煉獄先生に誘われたからって、一緒にご飯食べる気になったんですか?」
「...友達に自分の彼女を紹介するアレだと思ってた」

聞けば煉獄先生と不死川先生の付き合いは長く、学生時代からの友人だそうだ。更には宇髄先生、冨岡先生、伊黒先生もそうであり、皆キメツ学園出身だと驚くべきことも知った。だからあんなに仲が良いのかと納得していると、不死川先生がその思考に至るまでを説明しはじめた。

なんでも、食事をしながら自分の彼女を紹介し、仲良くしてやってほしいという事だと不死川先生は理解したらしい。1人でご飯を食べるのは寂しいらしいから皆で食べようという言葉も、彼女想いな煉獄に協力してやるか。という思いから今まで来ていたと知った。

「なんですかそれー!」
「こっちのセリフだわ」

呆れたように言ったかと思えば片手で口元を覆いながら「そうか...付き合ってねェんか...」とボソリと呟き何か考えるような表情をした。だから付き合ってないんですってば。

「とにもかくにも!名字先生、今日は良き出会いがあるといいな!」
応援しているぞ!な、不死川!とふれば、「あ?あぁ、まぁ...」と我に返った不死川先生が歯切れ悪く答えた。私に彼氏なんてムリだと思われているのだろうか。悔しいので「頑張ります!」と私は闘志を燃やした。


あの後すぐに、生徒達が来たため解散となった。5時間目も始まり食後の眠気に抗いながらパソコンに向かっていると、授業がないのか不死川先生が図書室にやってきた。
「何か忘れ物しましたか?」
お昼の時以外訪れることのなかった不死川先生が来たため、不思議に思う。食後テーブルを片付けた時に忘れ物などはなかったと思うのだが。
「いや、違ェ。なんかオススメの本あったら紹介してくんねェかと思ってよ」
おや、と思った。以前あまり本を読まないと言っていたが、何か心の変化があったのだろうか。いや、それよりも利用者が増えるのは好ましいことだ。

好きな作家はいるか、苦手なジャンルはあるか等質問を繰り返した結果、1冊の本を手渡し簡単なあらすじを述べる。

「不死川先生は数学の先生なので、数学が出てくる方が興味を持ちやすいのかと思いまして」
「お前は読んだことあんのか?」
「だいぶ前ですが、ありますよ」

ふーん。と興味があるのか無いのかわからない返事をしながらパラパラとページを捲っていく。そして「これ、借りるわ」と本を差し出してきた。貸出カードは随分前に紛失したとのことなので再発行をし、本と一緒に渡す。

「あと」
「はい?」
「飯食いに行くから連絡先、教えろよ」

まさか先程のやり取りを真に受けてしまったのだろうか。慌ててあれはあの場の雰囲気で出た冗談ですし、そんな気にしないでください、と言うが「男に二言はねぇ。いいから早よスマホ出せェ」と言われれば、出さないわけにはいかない。
結局連絡先を交換し、また後で連絡するわァと言い残して図書室を去っていってしまった。

ご飯食べに行くって、煉獄先生も一緒だよね?2人きりじゃないよね?どっちなのか聞けずに遠ざかる不死川先生の背中を見送った。



20210419


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