第2話


金曜日がついに来てしまった。
今日は出勤してから「お昼まであと何時間...」と時計を見ては溜め息をついていた。

不死川先生と何を話せばいいのだろう。
煉獄先生がずっと1人で喋ってくれたらいいのになぁ。不死川先生に急な予定でも入らないかな。
グルグルとそんな事を考えながら、返却された本を書架に戻していれば無情にもお昼を告げるチャイムが鳴り響く。


準備室のポットの前に立ち、急須に緑茶の茶葉を落としていく。煉獄先生はマイカップを置いているのでいいが、不死川先生の分はどうしよう。来客用の湯飲みでいいかと棚から出してお茶を注ぐ。そうして準備をしていると、いつものように足音が聞こえてきた。いつもと違うのは、足音が2つあることだ。

「名字先生!失礼する!」
「邪魔するぜ」

ガララッと勢いよく扉が開き、スイートポテトが届いたぞ!と喜色満面な様子でお菓子を掲げる煉獄先生と、真顔で表情の読めない不死川先生が立っていた。


来客用のテーブルを挟み、私の向かいに煉獄先生、斜向かいに不死川先生が座る。体格の良い男性が2人並べばこうも圧迫感があるのか、なんだか面接を思い出すなと内心苦々しく感じる。
気持ちが顔に出ぬよう取り繕っていると、あることに気が付いた。

不死川先生お弁当なんだ。


一人暮らしの私は節約を兼ねて自分でお弁当を作ってきている。煉獄先生は実家住まいのためお母様が作ってくれているらしい。
不死川先生は実家を出て暮していると噂で聞いたことがあるが、お弁当とは意外だ。もしかしたら実は彼女と同棲していて、その人の手作りなのかなと思い巡らせていれば、視線に気が付いた不死川先生がこちらを見た。

「なんだ」
「あ、いえ、その不死川先生お弁当なんですね。手作りですか?」

彼女の。と付けようとしたが詮索される事にウゼェと言われるかもしれないと咄嗟に判断してやめた。

「不死川は弁当の事が多いぞ!」
「まぁ節約になるしな。作るのが面倒な時は買い弁することもある」
「ということは、まさか自分で作ってるんですか?」

驚嘆の眼差しで不死川先生を見れば「他に誰が作るんだよ」と呆れたように言われた。

「いや、彼女さんかなぁとか思いまして」
「なんと!不死川、彼女がいたのか!?」
「いねぇわ!テメェら、俺んちを溜まり場にしてんだからわかるだろ!」

なんでも学校から近い場所のアパートに住んでいる不死川先生宅に、同じこの学校の教師である宇髄先生、冨岡先生、伊黒先生、そして煉獄先生がよく集まっているらしい。
職場の呑み会で終電を逃した時などは、よくみんなで泊まっているそうだ。

「不死川は料理が得意でな!料理名を言えば大体作ってくれるぞ!」
「すごい...お母さんみたい」
「ああ?誰がお母さんだァ?」

ポツリと漏れた言葉が耳に入ったようで、ギロリとこちらを見てくる。
すみません!と慌てて平謝りする私を煉獄先生が笑う。

「そういえば最近集まってないな!今日の終業後に家に行ってもいいか?」
「あー、今日はダメだわ。お袋の帰りが遅いらしいから実家に行って兄弟の面倒見なきゃなんねぇ」

そのまま泊まって週末は下の兄妹達を動物園に連れて行く約束をしていると言う。

短い時間の中で、私が不死川先生に抱いていたイメージがどんどん変わっていく。勿論良い意味でだ。
怖い、苦手だと感じてはいたが、言い換えればそれだけ生徒に対して真剣に向き合っている証拠なのかもしれない。料理上手で兄弟思いで面倒見がいいだなんて、こうして話さなければ私にはわからなかった。弟の玄弥くんの賞状を破ったのはいただけないけれども。


ご飯を食べ終え、お待ちかねのスイートポテトの番だ。安納芋をはじめ、べにはるか、鳴門金時などのさつま芋を使用して作られた数種類のスイートポテトが食べ比べ出来るようになっている。それぞれの味の違いについて話しながら、スイートポテトに舌鼓を打つ。

不死川先生はみたらし団子を買ってきてくれていた。そういえばこういうお団子を最近食べてなかったな。そう思いながら口にすれば懐かしい味がする。お餅も柔らかくタレが甘すぎないのもいい。「美味しい!」と言えば「そりゃ良かった」と不死川先生がふっと笑うものだから、この人も笑うのかと当たり前な事を思った。


食後のデザートを食べ終え、そろそろ職員室に戻らねばと煉獄先生が立ち上がった時、思い出したように鞄を探り出した。
「忘れていた!お借りしていた本を千寿郎から預かってきた!かなり気に入ったようでこのシリーズの本を買うか迷っているようだ!」
「そうですか!やはり好みに合いましたか。中等部の図書館にはないんですね。ヤングアダルトとして中等部の図書室にあってもいいと思うんですが...」
内容が少し難解な所もあるからだろうか。でも興味持ちそうな子は他にもいるんじゃないかな。と考えあぐねていれば不死川先生がじっと本を見ていた。

「名字先生には、よく読書相談にのってもらっているんだ!本のことには詳しいから、不死川も何かあれば相談すると良い!」
「いや、別に俺はあんまり本読まねェし。...あー、いや待てよ」

ふと閃いたように不死川先生がこちらを見る。
「受け持ちのクラスで進路に迷っているやつがいてな。なんかわかりやすい本とかあればいいとは思っていたんだが...そういうのはあったりするんか?」


その質問に、任せてください!と力強く答えた。こういう時こそ司書の出番である。
差し支えない範囲でどういった進路に進みたいのかを聞き、その職業に関する本、実際にその職業に就いた人が書いたエッセイなど数冊書架から抜き取る。
以前勤めていた所と比べれば蔵書量も広さも少ないので、1年勤めていればどこに何があるのかは把握している。
不死川先生に本を差し出しながら、それぞれを簡単に内容を説明していく。
「ざっと今紹介出来るのはこれくらいなんですが...必要そうならもっと調べて、他の図書館から取り寄せるので言ってください!」
最近はネットが主流ですけど、やはり本にしかない良さがあると思っているんですよね。そんなことを言えば「おう...なんか、すげーな」と私の気迫に不死川先生は少し引いた顔をしていた。...やってしまったかもしれない。

「少し借りてもいいか?生徒に見せてやりたい」
「分かりました。こっちで控えておきます」
「助かるわ」

そう言って不死川先生と煉獄先生は「また来週」と図書室から出て行った。


足音も遠ざかり、1人になった途端にふーーーっと息が出て力が抜けてしまう。
「でも、思ったより楽しかったな」
想定より楽しいご飯時間を過ごせた事に胸をなで下ろしながらテーブルを片付けていった。



20210407


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