ほどけて、おちる(現パロ)
※現パロです。
※雰囲気ダレーロ提出作品のため、ガッツリではありませんが、少しの性的要素を含むので苦手な方はご注意ください。


あ、まずい。
先程まで胸に感じていた窮屈さが急に和らいだ。それは浴衣の帯が緩んでしまったのを意味する。
本来ならば母親に着付けをしてもらう予定だったのだが、急な残業になったと連絡が入ったのは二時間前のこと。同時に送られたURLは、一人でできる浴衣の着付け動画だった。これを見て頑張れという事だろう。大学の友達に着付けを頼もうかとも考えたが、そんな時間的余裕はなかったので腹を括った。
何回も動画を止めては戻しを繰り返し、格闘すること一時間。どうにか形になり、恋人である実弥と夏祭りの浴衣デートに無事漕ぎ着けたはいいもののこれだ。付け焼き刃の着付けでは帰宅まで保たなかったようである。

一歩一歩歩く度に帯の緩みが酷くなっていく気がする。いよいよどうにかしなければと焦り始めた時、実弥が私の異変に気付いたようだ。

「こっちに来い」

境内に並ぶ屋台がある通路から少し外れた林道。手を引かれるままに移動すれば、直すから背中を向けろと実弥がいう。

「できるの?」
「まぁな」

少し離れた場所からは往来の喧騒さが伝わる。それなのに、シュルシュルと解かれる帯の音が異様に耳に入るのは何故だろう。

「これ、おばさんじゃなくて、お前が一人で着付けたろ」
「うん。よくわかったね」
「おはしょりが甘い。膨らんでるし、斜めってる」

確かにちょっとおかしいかなとは思ったけれど、初めて一人でやったにしては上出来だと思っていたので心外だ。頬を少し膨らませてみたところで、後ろを向いてるから伝わらないだろうけれど。と、左脇の開いている身八つ口から実弥の手がするりと浴衣の中に入ってくるではないか。

「ちょっと!エッチ!」
「はァ?なに勘違いしてんだ。ついでにおはしょりも直そうとしてやってんじゃねぇかァ」

そう言って浴衣の前の部分をグイグイと引っ張り上げたりと調節していく。次いで向き合うように指示され、あっという間に帯を巻き始める。
その真剣な表情に下心は露ほども感じられず、先程の自分のやましい妄想に気まずくなった。

「これでどうだ」
「……すごい、さっきよりスッキリしてる」

自分では何回やってもモコモコになってしまったおはしょりに厚みが消え、帯の歪みが一切なくなっている。凄いと感じ入ると同時に、なんで女性用の浴衣の着付けが出来るのよと訝しむ。

「いや、待て」

顎に手を当て、こちらを見ながらじっと考え込む実弥。どうやら今ひとつ納得がいかない様子。私としては帯の解けが直っていればよく、早く屋台通りに戻ってかき氷が食べたいところなのだけれど。なにせ夜なのに蒸し暑いのだ。
再度後ろを向くように指示され、はいはいと従うとやはり身八つ口から手が入ってきた。先程のように浴衣用インナーの上を大きな手が滑っていく。
だが手の動きがなんだかおかしい。浴衣を調節するような動きではなく、これは。

「あっ……、っん……」

インナーの上から胸を揉まれ、ビクリと体が動いた途端、実弥のザラリとした舌が項を舐めた。

「なん、で……」

浴衣を直してくれるんじゃないのか。抗議のために振り向きたいが、如何せん体格が違いすぎる実弥に後からホールドされては適わない。

「せっかく美味しいシチュエーションなんだからよォ……楽しまなきゃ損だろ」

クツクツと愉しげに笑っている。浴衣に似合うようにとアップスタイルにセットしたのが災いしたようで、実弥の唇が項を好き勝手に這う。
時折チゥと吸い付いたり舌で舐められ、蒸し暑いはずなのに背中がゾクゾクして肌が粟立っていく。同様に左手も止まることがなく胸を良いように揉みしだいている。
人気のない林道にいるとはいえ、数メートル離れた場所には人の往来があるというのに、バレたらどうするんだ。漏れ出そうになる声を懸命に手で抑えるが、次第に下腹が疼きだし頭がクラクラとしてきた。

「なぁ、知ってるか?」
「身八つ口っては体温調節の役割があるみてぇだが、一説には男が手を入れやすくするってのもあるとかないとか言われてるみてぇだぜ」

そんなバカな。
普段なら一蹴するような戯言だが、反論できるような頭の状態ではない。
首筋やインナーの上からとはいえ胸を散々良いように弄られ、次は早く下を触って欲しいと本能が求める。それに応えるかのように、空いていた右手が浴衣の上から太腿をそっと撫でる。早く、早く……触って……。

「なぁ、こっちの方ならこの後の花火がよく見えるんじゃね?」
「えー、蚊とか蛇とか出てきそうでイヤなんだけど」

淫靡な雰囲気が漂っていた私達に、突如賑やかな声が降り注ぐ。男女何人かのグループが、はしゃぎながらもこちらに近付く。
実弥はというと素早く私から離れ、素知らぬ顔で帯はしっかり結べたぞと言ってのける。私は体の火照りが治まりきらないというのにコイツは。

「あちィな。かき氷でも食いに行こうぜ」

悪びれもなくニィッと笑いながら差し出す手を、ジッと睨みつけた後に触れた。
手を繋いで明るい方へと歩き出した途端、耳元で囁き声が聞こえた。

「続きは後でな」



20210724


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