青春の裏側(現パロ)
※下品な下ネタ要素が強いです。何でも許せる方のみお読みください。



「臭いよー、汚いよー、キラキラしてないよー。思ってたのと違うよー」
「言うなァ…」

五月晴れの空の下、不死川、煉獄、宇髄、冨岡、胡蝶しのぶ、名前の6人は、通っている高校のプールサイドに立っていた。昨年の夏に授業で利用したことがあるため、よく見知っているはずのプールなのだがその時とは様相が違う。
塩素消毒されプールの底まで見渡す事が出来るほどキレイな水の代わりに、緑色に濁った水が足首の深さ程入っている。プールの青い壁面には藻やら苔がこびりついていた。彼らが今立っているコンクリート製のプールサイドには、ヒビが入った箇所から雑草が生えて荒れている。
それもそのはず。今の彼らがいるのは、プール開き前のプールなのだ。昨年の晩夏から越冬し現在に至るまでの期間は、藻が大量繁殖するには充分であった。

「よもや!プール開き前のプールはこのような事になっていたとは知らなんだ!」
「なんで水を入れっぱなしにしてるんだろうね」
「プールの劣化防止や消防用水などのために貯めておくようですよ」
「こんな水を消火活動に使うのかァ?あんまり考えたくねぇな」

掃除をするにも関わらず、何故か夏の制服姿で水を掛け合いきゃっきゃっする男女。蛇口に繋いだホースから飛び出す水は、放物線を描いて虹を作り出す。
学校のプール掃除といえば、このような甘美なイメージをする者が殆だろう。しかし実際は皆ジャージ姿であり、濁った水からは沼のような生臭い匂いが鼻腔を刺激して不快だ。とてもテンションが上がるような状況ではない。
そんな事などお構いなしに、紺のジャージを着た体育教師は倉庫から持ってきたデッキブラシを1人1人に手渡していく。
「もう少しで水が抜けるからな。そうしたら、向こうの端からこっちの排水溝まで、残った水を移動させつつ掃除してけよ」
へーい。だのはーいだのとやる気が感じられない返事が飛び交う中、体育教師は「すぐに戻るからな」と言い残してどこかに消えた。

そもそもなぜ彼ら6人がプール掃除をする事になったのか。
発端は冨岡と不死川のちょっとした諍いだった。いつものように言葉足らずな冨岡に対し、不死川がキレて一触即発の雰囲気になった。それを見ていた宇髄が面白がり、野球でケリをつけようぜと提案した。何故野球だったのか。答えは簡単だ。掃除の時間で箒を持っていたからだ。道路沿いの校門から校舎を繋ぐアスファルトの道には、両側に桜の木が植えられている。役目を果たした桜の花びらや実が、大量に落ちるその場所を掃除するのが不死川達の本来の役目だった。
手にしていた箒をバッドに見立て、そこら辺に落ちていた軟式テニスボールを投げて打てるか否かで決着をつけるという至極簡単な勝負だ。「俺が審判をやろう!」と煉獄が名乗り出て打者冨岡、投手不死川で試合が始まろうとしていた。
そこへ別の場所できちんと掃除を済ませ、ゴミ箱を抱えて焼却場へ向かう胡蝶と名前が通りかかった。宇髄から事の次第を聞いた名前は大層面白がり「実弥頑張ってー!」と応援しだす。胡蝶は「また馬鹿なことをしてるんですか。懲りませんねぇ」と呆れていた。
名前からの応援に不死川は俄然やる気が出て「絶対に負けねェ!」と意気込む。名前と不死川は家が隣同士の幼馴染であるため、互いに下の名前で呼び合う仲だ。しかしただの幼馴染だと思っているのは名前だけであり、不死川の方は幼少期の頃より彼女の事が好きだった。想いを寄せられている本人はその事を知らないが、不死川を知っている者にとっては周知の事実である。唯一人、冨岡を除いて。
かくして始まった勝負は、冨岡がフルスイングした箒によってボールが勢いよく飛び、たまたま来客としてそこを歩いていた学校関係者の顔面にヒットして幕を閉じた。そうして、そこにいた者全員が罰としてプール掃除をする事になったのだ。


「そろそろ降りていいんじゃね?」
水がほぼ抜けたのを確認した宇髄のその言葉に、名前や胡蝶達がジャージの裾を膝まで捲りあげる。宇髄や煉獄、不死川は手っ取り早くハーフパンツ姿になり、履いていたズボンをそこらに放り投げた。太陽光により鈍い輝きを見せる銀の手摺り階段を、1人ずつ降りていく。

「う、わっ!」
「っと、危ねぇなァ。結構滑るから気を付けろよ」

ぬるつく床に名前が滑りそうになったが、先に降りていた不死川がすかさず抱きとめて事なきを得た。
「うう…足の裏がヌルヌルして気持ち悪いよぉ…動き回りたくないよぉ…」
己の胸元で半泣きになっている名前にそう言われたのならば、なんとかしてやりたいと思うのが惚れた弱みなのだろう。半泣きになっていなくても、名前には滅法弱いのだが。

「ったく、仕方ねぇなァ。名前はあっちの排水溝辺りに溜まってる水を掻いてろよ」
「おーおー、流石は不死川。ほんっと、名前にだけは優しいよなァ」
「うるせー」
「それなら私も名前と一緒の場所をやってますね。私達はあなた達に巻き込まれたようなものですから」
「いいんじゃね?その分不死川が頑張るってよ」
「わーったよォ」

舌打ちをしつつも了承し、サッサと終らせて帰ろうぜと全員の意見が一致した。取り敢えず向こうの端に移動するかと、不死川達が歩きだした瞬間、名前が悲鳴を上げた。
「どうした!?」と、不死川が慌てて名前の元へと向かおうとする。ヌメリに足を取られて転びそうになるが、そこは身体能力が高い不死川。なんとか転ばずに名前への側へと辿り着いた。しかし「ムリムリムリー!」と叫ぶ名前が抱き着いてきたため、気付けば視界は青空を捉え、不死川は名前に押し倒された格好になっていた。
お尻と背中を強かに打ちジンジンと痛むが、鳩尾に当たる柔らかな感触と名前の頭髪から香るシャンプーの匂いに痛みは瞬時に吹っ飛んだ。ムリムリ!と連呼しながら尚もモゾモゾと動くものだから、名前の太腿が不死川の股間を何度も刺激して焦る。

「おい!名前、落ち着けェ!」
「おいおい、此処でおっ始めんなよ」
「するかァ!!」

茶化す宇髄に切れ返せば、名前が「アレ!」と連呼しながら指を指す。その方向は排水溝周辺の淀んだ水溜り。と、一匹のカエルだった。

「んだよ、ただのカエルじゃねぇか」
「それだけじゃないんですよ」

排水溝近くに立っていた胡蝶がこちらに来て名前を起こし、どこか困惑した様子で否定する。
不思議に思った不死川達が、排水溝辺りの水溜りに近寄れば何かが蠢いていた。
「ウゲッ」
そこにいたのは大量のおたまじゃくしだった。一般的に思い浮かぶおたまじゃくしの姿から、変態途中で手足が生えかかっているものもいる。水溜りの縁では何匹かがピチピチと跳ねていた。更に目を凝らすと、細長く透明な紐状の中に、小さな黒玉が連なっているものも散見する。カエルの卵だ。時折吹く風が濁った水面を掠めると、ゆらゆらと揺れ動く。流石の男性陣もこの光景には引き気味だ。

「ド派手に繁殖してんじゃねぇか…」
「道理で雨が降るとここら辺がうるさかったわけだ!!」
「もうタピオカ飲みたくなーい!」

キレイに掃除した後に使用するとはいえ、夏季以外はこんな姿のプールを使用していたのかと思うとなんとも言えない気持ちになる。プール掃除の真実なんて、知らない方が良かったと、誰しもが思った。

「え、こいつ等どうすんの?排水溝に押し込むのは可愛そうじゃね?」
「うむ!小さくともこのような命を粗末に扱うのは些か気が引ける!」

ひっそりと育まれていた大量の命を前に戸惑っていると、豪快な笑い声が一同の頭上から降ってきた。プールサイドから不死川達を見下ろしているのは、先程消えた体育教師だ。両手には大量のバケツを持っており、これを取りにいったのだろうとわかる。
「いい反応してくれるなぁ!これを見た時の反応を見るのが毎年の楽しみなんだ」
悪趣味と誰かが呟いたが、その通りだと不死川は思う。
「このバケツでそいつらを抄くって、そこの側溝に放流しといてやれ」
教師が指差すのは、プール場に隣接している更衣室近くの側溝だった。



横に倒したバケツに、デッキブラシでおたまじゃくしや卵達を押し込んでは側溝に放流する。その繰り返しをひたすら行う。最初は「マジかよ」「うわー」と口にしていた面々も、何度もやれば慣れてしまう。あれだけムリだと連呼していた名前も、無言でバケツを持って胡蝶と側溝へと向かった。

「いやー、やっぱさー、おたまじゃくしってアレに見えね?」
「アレとはなんだ宇髄。ハッキリ言え」
「精子」

ブッ!と不死川が噴き出すが「確かに似ている!」と煉獄も納得しだす。不死川だって思ってはいたが、名前もいる手前敢えて口に出さずにいたのだ。

「一回の射精で出る精子の量は、確か億単位なんだっけか?こいらよりド派手に多いよなぁ。まぁティッシュに出されて終わる儚い俺らのおたまじゃくしとは違って、こいつらは別の場所でも生きていけるからいいよなぁ」
「本来の場所に産まれ落ちない不幸はどちらも同じだがな」
「お、珍しく冨岡も猥談にのってくんじゃん」
「なんだかおたまじゃくしに親近感が湧いてきたぞ!」
「風呂場で出した時、排水溝に流れてくのを見る度に今日のこと思い出しちまいそうだわ」
「ねー、何の話?」

いつの間にか、空になったバケツを手にした名前と胡蝶がそこに立っていた。楽しそうな会話に参加しようと、ワクワクした顔で宇髄に尋ねている。

「おー、おたまじゃくしって精「だー!!!」…だよ、うるせーぞ不死川」

名前の耳を両手で塞いで大声を出す不死川。こんな下ネタを聞かせたくない一心での行動だが、不死川の突然の行動に驚いた名前は、体を捩ってすぐに逃げだした。

「もー!なんなの!」
「なんでもねェ…」
「ほんと、名前には過保護だよなぁ。ある程度免疫つけさせねぇと、いざという時困るぞ」
「うるせー」
「ねぇ、だから何の話?」
「不死川くんが過保護って話ですよ。ところで宇髄くん、女性もいる前でそういう話をするのは感心しませんねぇ。そういうのはプライベートな空間でしてくださいね」
「へいへい」


おたまじゃくしを粗方放流し終えた所で、体育教師からもういいぞと帰宅の許可が降りた。明日はまた別のやらかしたメンバーが掃除をするそうだ。そうしてある程度キレイになった明後日に、水泳部が本格的に掃除に取り掛かるらしい。
体育教師の「寄り道せずに帰れよ」の言葉に形だけの返事をした一同は、更衣室で制服に着替えてからすぐに最寄りのコンビニに向かった。各々が好きなアイスやら飲み物を購入し終えた後は、道向かいにある公園へと移動する。
最近は5月といえど暑い。加えて割と真面目にプール掃除をしたものだから汗をかいた。コンビニによって冷たい物でも食って帰ろうぜと、掃除中に皆で決めていたのだ。

夕陽で染まる公園は人も疎らだ。遊具を使うような幼児もいなかったため、備え付けのベンチやブランコ、ブランコを囲う柵など、各々が好きな場所に座りアイスや飲み物に手を付ける。ベンチに座る名前の隣をちゃっかり陣取っているのはやはり不死川だ。
「んー!新発売のこのアイス美味しい!実弥も食べてみて」と、手にしたアイスを差し出す。あーん、の格好になるが慣れているのか不死川は気にした様子もなくアイスに齧り付く。

「ん、確かにうめぇな」
「だよねー!またお母さんに買ってきてもらおっと」
「俺のも食うかァ?」
「食べる食べるー!」

不死川が手にした棒アイスを名前の口元に差し出せば、やはりなんの疑いもなく口を開けて食べ始める。お互いにアイスを食べさせ合い、美味しいねと笑い合う。そんな不死川と名前を他のメンバーが見ていた。

「あれで付き合ってないってありか?幼馴染にしたって距離感が派手にバグってんだろ」
「不死川のせいで他の異性との距離も近いんじゃないか?」
「そこは不死川くんなので、名前に近づいてんじゃねぇとバレないように威嚇してますよ。最近だと名前の落とし物を拾って、届けようとしていた男子が被害にあってましたね」
「あーあ、かわいそっ」

宇髄がアイスに歯を立てれば、表面をコーティングしているチョコがパキンと音を立てて割れた。


20211111


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