いつもの通学路。ピンと張りつめた冬の朝のなか。
ミーミー
ふと、か弱い動物の鳴き声と、それに返事をしているらしい声がわたしの耳に届いた。 足音を忍ばせ声のする方へ向かうと、ちょうど角を曲がったところに、見慣れた背をこちらに向けた人がうずくまっていた。
みゃあ 「そうか、家族とはぐれたのか」 みー 「俺は今から学校だ。一緒にくるか?」 みゃぁん 「大丈夫だ、部室にあたたかい毛布があるから、そこにいればいい」
聞き馴染みのある声に何度も吹き出しそうになりながらも様子を伺う。しばらくして立ち上がりこちらを向いた人物はやはりよく知った人で、ギョッとしてわたしをみている。
「……いっ…いつから」 「…最初から?」
困惑の表情のまま、寒さのせいかはたまた恥じらいか、耳を真っ赤に染めて顔を伏せた。
ひとつ年下のわかちゃんとは幼いころから家族ぐるみで仲がよかった。しかし中学にあがってからというもの、わかちゃんはテニスに夢中になった。年を重ねるごとにわかちゃんのそれは熱をまし、高校生になった今やまったくわたしの相手をしてくれなくなってしまったのだ。
だけど、動物にやさしいわかちゃんは昔から変わっていないのだな、とわたしは懐かしいあたたかさで心がいっぱいになった。
「急ぐので」 「みゃあ〜さむいにゃあ〜」 「…急ぐので」 「にゃあにゃあ〜」 「…やめてください」 「ちぇ、つまんないの」
昔みたいにちょっかいをかけるけれど、わかちゃんは昔みたいに半べそになったりしない。当たり前といえば当たり前だけど、ちょっとさみしい。
気がつけばすっかり男の子ではないか。
わたしが頬をふくらませたのをチラリと確認し、わかちゃんはなおも顔を伏せたまま、ぽそりとつぶやいた。
「…可愛いから」 「へ?」 「可愛いからやめてくださいと言っているんです」 「…へっ?」 「…急ぐので」
そうして、何事もなかったかのようにスタスタと去って行ってしまった。 始業20分前のチャイムが遠くで鳴り出す。火照った顔を冷ますように、わたしはそのあとを駆け足で追いかけた。
可愛いからやめて 2012/12/6 若誕!おめでとう!
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