夕焼けみたいな色だ、といつも思う。わたしの膝を枕にして規則正しい寝息をたてている彼の髪に、こちらは不規則に、触れている。いつもきちんとセットされている髪は、わたしと会うときだけはごく自然なままだ。こっちのほうが好き、と言ったことがあった。人一倍単純な男なのだ。

前に一度、キミにしてもらう膝まくらはほんとうにしあわせなんだよ、と言われたことがあった。彼は巷では女たらしで有名で、すれ違う女の褒め言葉をわざわざ聞こえるように口にするような男だが、自分の思考を晒すような言葉が彼の口から出てくるのは稀だった。とびきりの小春日和であったことをよく憶えている。

そのときの顔は本当に幸福に満ちていた。いつものふざけた調子の、いやらしく鼻の下の伸びた彼はそこにいなかった。


「…ん」
「あ、ごめん」


そんなことを思い出してたいたらなんだか恥ずかしくなってしまい、無意識に彼の耳たぶを軽くつねる。

ほんとうにしあわせで、ほんとうに、キミのことが好きだって、思うんだ

続きに彼は幸福に満ちたまま、真面目な顔をして、そう言った。

このひとはなんでこんなことをこんな顔で言えるのだろうか。わたしは喜びと焦りが混ざったような気分になり、なにも言わずに顔を伏せてしまった。彼は満足そうにわたしの頭を撫でた。


「…きよ、すきだよ」
「…ん…?」


あのときわたしがされたように、彼の頭を撫でる。腕が腰に回され、瞬間、寝ぼけた愛のことばが部屋中を満たした。


ひざまくら


「…なまえちゃん大好き。しあわせ」






2012/11/21


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