kagetama | ナノ

永遠と一日


昨日、部隊を辞めた。
明日には実家に戻る。
そして今日は、恋人としてタマキと過ごせる最後の日。

海に行こっか、とタマキが言うので、昔の歌謡曲のように春色の汽車に乗ってふたりで海に来た。
季節外れだからか平日だからか、俺たちのほかには誰もひとはいなかった。
砂浜を歩きながら、晴れて良かったな、とタマキが綺麗な笑顔で俺を振り返る。
ありがとな、カゲミツ。
いろんな想いが込められた台詞に、俺は少し泣きそうになりながら頷く。
そんなシケた顔すんなよ、と笑いながらタマキは靴と靴下を脱ぐ。
二度と会えなくなるわけじゃないんだし、それに今日だってまだまだ終わらないだろ?
ジーンズの裾を折り曲げながらそう言ったタマキは、波打ち際まで歩いていき、そっと裸足を海水に浸した。
冷たくて気持ち良い、とはしゃぐタマキの姿を見ながら、俺はふと眩しさに瞳を細める。

跳ねる、陽光に反射してキラキラと輝く水飛沫。
タマキの楽しそうな声。
大好きな笑顔。
ああ、きっと俺はこれから先何度もこの場面を思い出すのだろう、と思った。
恋人ではいられなくなった未来でタマキと恋人同士だったことが遠い過去になってしまったとしても、この場面を思い出す時、過去はいつも鮮明な現在になる。

振り返った渚の恋人が楽しそうに笑う。
カゲミツも来いよ。
いま行くよ、と靴を脱ぎながら、俺はふと昔見た映画のタイトルを思い出した。
ああ、そうだ、
きっと今日の長さは、

『永遠と一日』。

| ×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -