無器用な君



「ローランサン、…そこにある本とってくれないかな」

テーブルの上にある分厚い本を指して、イヴェールが言った。
先程からイヴェールは自分にこんな事ばかりを言ってくる。
本をとってくれだの、水をくれだの、こんな事ばかりだ。

テーブルの上にある本をとる。
毎回イヴェールが読む本は決まって分厚い物ばかりで、小難しい内容の物だ。
毎回それを見るたびに、よくこんなにも分厚い物を読めるものだと思う。

イヴェールに本を渡す。
それをイヴェールはありがとうと言って受け取った。

「…ごめんローランサン、さっきから頼んでばかりで言いにくいんだけど…あの本棚の横にある本とってくれないかな…」

また、本だ。
イヴェールに指定場所を見ると、本棚の横に何冊もの本が山積みにされている。
全部持ってこいとでも言っているのだろうか。

本来ならそれくらい自分で取れだの言うのだが、今回ばかりはそうもいかない。
別にそうしてもよいのだが、少なくとも今は体に――特に足に負担をかける動作は控えた方がよい。

なぜ、このような雑用事を自分がしているのか。
率直に言うと、こうだ。

イヴェールが怪我をした。










「ッ……」

「…足、痛いか」

手当をしている際に、イヴェールが痛みで顔を歪ます。
どうやら怪我は思ったより痛いらしく、歯を食い縛って耐えているようだった。

話によると足を捻ったらしいので、とりあえず固定するために包帯を足首に回す。
このような怪我の場合、薬等で治るものでは無いため、それが厄介だ。
しかもどういう捻り方をしたのか、今回のそれは軽いものでなかった。

包帯を巻き終えて、包帯の端に留め具を付ける。

「っう…」

どうやらその微かな刺激でも痛いらしい。
イヴェールが呻いた。
捻挫自体はそこまで痛い怪我では無く、安静にすれば治るものだが、今回は痛みが酷い。
捻挫で捻ったのであろう足首は腫れており、見るからに痛そうだった。

「…そんなに痛いなら医者に診て…」

「いい、大丈夫」

自分が言い終わる前にイヴェールが言葉を遮る。
自分としては医者に頼んで足を見てやって貰いたいのだが、イヴェールはそれを拒んだ。

「……はぁ…」

思わず溜め息が出る。
捻挫とはやはり厄介なものだ。
自分も何度か足を捻挫した事はあるが、そのときも今と同じように足を固定して安静にしておけば治ったし、したとしてもせいぜい冷やすくらいだ。
特にこれといってすることが無い。

「……する事とかあるか?」

「……する事…?」

このまま何もせずにじっとしておくのも何だと思い、とりあえず何かする事は無いか聞いてみる。
自分は普段はこういった事をあまりしない方なので、何をすればよいか分からないため聞いてみない事には何も出来ない。
別に何もせずにいるのも悪くは無いが、本心を言うと、今は少しでもイヴェールの助けになることをしてやりたかった。

「……そうだなぁ…本もとって貰ったし…」

どうやら特にして貰いたい事も無かったようだ。
辺りをキョロキョロとしては視線を泳がせている。

「……ごめん、特に無いかもしれない……ただ…」
「…ただ?」

申し訳なさそうに眉を下げて言った。
こんな時くらい、甘えて貰ってもいいのに、それを言うことに躊躇っているのか、口を開けては閉ざしている。

「あ…ぅ…」

「……イヴェール、」

やっぱり慣れない事をするものじゃないなと思いながらも、何かしてやりたい一心でイヴェールを見つめる。
しばらくの間押し黙っていたが、促すように名前を呼ぶと、それが伝わり堪忍したのか閉じていた口を開いた。

「……ただ…ただ、側にいて欲しいな……」

「…………は?」

驚きのあまり、声が上擦る。
予想出来なかった返答が返って来たため、口が思うように動かない。
もっと面倒な――と言っては何だが、何か作ってとかそういった事を言うのだと思っていたので拍子抜けしてしまった。

本当にそんな事でいいのだろうか。
そんな事を考えながら、しばらく何も言えずにそのまま呆けていると、そんな自分を見て後悔したのか、やっぱりいい、と早口にまくし立てあげられてしまった。
それにハッとして、何か言わなければと口を開ける。

「オイ、イヴェ…」

「やっぱり言うんじゃなかったかな」

自分が言い終わる前に、イヴェールが言葉を放つ。
それには明らかに後悔の意味が含まれてあり、少し寂しさも感じた。
先程よりも眉が下がり、悲しそうに見える。

「ごめん、やっぱりいいよ。別に大丈夫だし、ローランサンに迷惑かけたら…」

「イヴェール、」

今度は自分が言葉を遮るように強めに言う。

「さっきのは別に迷惑だとかそんなんじゃない。ただそれだけでいいのか、って驚いて変な声出ただけだし…誤解招くような態度とって悪かった…」

誤解を解くために確りと意志を伝える。
しばらくしてイヴェールもそれを理解したのか、良かった、と安堵の言葉を呟いた。

「なんだ…そうだったんだ」

ごめん、と苦笑いをする。
だが、先程とは違ってそれに悲しみはふくまれていない。
それに気付き、自分も安堵の笑みを浮かべる。

「いや、誤解招くような事言ったのはこっちだし…」

「ふふ……まぁ確かにね。けど、早とちりした僕も僕だよ」

何時ものようにとりとめ無い会話をする。

「…確かにな」

苦笑いをしながらも自分と同じように安堵の笑みを浮かべるイヴェールを見つめながら、慣れない事をするのも悪くないな、と思った。







*あとがき*
888,999,1000hitを踏んで頂きました方に捧げます!
せっかくリクエストして頂いたにも関わらず、無駄に長いだけな文になってしまいました…
一体なんなんだ私は←
こんな文章でも宜しければどうぞ煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!
ゴミ箱にでも捨ててくださi((
機会があればリベンジさせて頂きます!!
この度はキリリクありがとうございました^^


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