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どうにもこうにもこれが愛


短く切り揃えられた爪は綺麗に弧を描いて、艶やかに光っている。昨日大学で長い爪に派手なネイルを施した爪を見たせいか、妙に安心する。なまえは無添加というか、素材のよさを活かすタイプのようで、化粧も最低限、服装も至ってシンプルだ。だからこそこういう爪が活きるんだなあと男ながらに思ったりする。隣に座っているなまえがくわあっと手を前に出して伸びた。


「なまえの爪って昔から綺麗だよな」
「ほんと?ありがとう」
「なんかしてんの?」
「うん、爪磨きで磨いてる」
「すげえ。俺やったことない」
「そうなの?じゃあ手貸して、してあげる」


別に俺は爪がピカピカじゃなくてもいいんだけどなあ、なんて思ったけど、なまえがあんまりニコニコして手を出すものだから、言われるがまま右手をなまえの左手に重ねた。俺とは質感の違う手。やわらかい。


「形は綺麗だね。磨いたらきっとすごく綺麗になるよ」
「そう?」
「うん。道具持ってくるね」


立ち上がろうとしたなまえの手を握った。


「ちょっと孝支、道具持ってくるから離して」
「ん〜やっぱ今日はいいや」
「せっかくだからすればいいのに」
「俺このまま手繋ぎたくなっちゃった」


へらっと笑うと、つられてなまえも笑う。しょうがないなあって言って俺の隣に腰を下ろした。ふわりとシャンプーの香りがする。


「なあに?甘えたさんだね」
「へへ、そんな気分」
「じゃあわたしも甘えよう」


肩に頭をもたげてぐいぐい押してくる。これは甘えるっているよりじゃれてるって言った方が近いと思うけど。それでもかわいい。かわいくて、ずるい。俺の胸をきゅうきゅう締め付けてくる。


「なまえ」
「なに?」
「ちゅーしていい?」
「いっつも何も言わずにしてるくせに」
「そうだった」


ちゅっ。触れるだけの優しいキスはいやらしさなんて微塵も感じさせない。お互いの気持ちを繋げるような。にひひ。なに?すき。知ってる。2人で笑いあって、もう1回キスをする。指を絡めて、この幸せが逃げないようにぎゅっと力を込める。ああ、幸せだ。


「なまえ」
「なに?」
「結婚しよっか」
「……んん?」


突然のプロポーズになまえはぽかんとしている。とはいえ、俺も今プロポーズするつもりはなかったんだけど。なんだか、幸せだなって思ったら、ふとプロポーズの言葉が口から出ていた。なまえの手に力が込められる。


「急、だね?」
「俺もびっくりした。なんか自然に出た」
「自然にプロポーズ?」
「そうそう」
「なにそれ……ふふっ」


いつかなまえと結婚するんだと思ってたから、急でびっくりしたけど、納得したというか。こんな小さなきっかけでプロポーズするくらい俺の結婚への気持ちが高まっていたとは思わなかったけど、結婚するならなまえ以外に考えられないし、きっとなまえは運命の人だと思うから。


「返事、もらってもいい?」
「……ふつつかものですがよろしくお願いします」


ふにゃりと少し恥ずかしそうに笑ったなまえがあんまりかわいくて、ぎゅっと腕に閉じ込めた。なまえの右手が背中に回る。


「やばい、嬉しすぎてどうにかなりそう」
「うん、わたしも」


ああ、やっぱり幸せだなあ。まずはこの指に合う結婚指輪を買いに行こう。なまえに似合うシンプルな指輪がいいなあ。




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