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今年も花粉の季節がやってきた。花粉症のみょうじにとっては最悪の、そして俺にとっても大変な季節の到来である。斜め前に座るみょうじの顔の大部分を覆い隠してしまうマスクの存在が恨めしい。今朝のみょうじの第一声は鼻声だったから、きっと花粉の飛散が多いのだろう。俺は花粉症じゃないからわからないけど。俺はそれよりも椅子で舟をこいでいるみょうじがバランスを崩して倒れるんじゃないかと心配だ。この間そうやって倒れそうになっていたのを忘れたのだろうか。みょうじはどうも抜けたところがあって、それは俺の呼び方にも表れている。みょうじはいつも俺のことを「あかーし」と間延びした呼び方で呼ぶのだ。この呼び方はなんだかんだ気に入っているけど、この間木兎さんに似たような呼び方をされたときは最高にイラッとした。


「おーい、あかーし」
「お腹すいたーだろ?」
「さっすがあかーし!」


俺は完全にみょうじのカモになっていて、何かちょうだいとねだられるのは日常茶飯事だ。今日は前にみょうじが食べてみたいと言っていたチョコレートを用意済み。パッケージを見せると、目をきらきら輝かせて食べたかったの!と足をばたばたさせた。危ない。うしろの席のやつが席を外しているのをいいことに、机に肘をついて不安定な状態のまま手を伸ばしてくる。だから危ないって。みょうじの小さな手に個包装のチョコを一粒乗せると「ありがと」と笑顔。マスクをしているから目だけしか見えないのがもどかしい。マスクを顎の下にずらし、チョコを口に放り込むとすぐにマスクを元に戻した。この時期にみょうじの顔を見られるのはこういうときくらい。昼休みは部活で集まって弁当を食べるらしく、みょうじは教室にはいないのだ。


「んー!おいしい」
「よかったね」


どうやらこの新商品はみょうじのお眼鏡に適ったらしい。そんなにおいしいものかとみょうじを眺めていると、マスク越しにもぐもぐと咀嚼していたみょうじの口が動きを止めた。それから、物欲しそうな目でこっちを見てくる。言いたいことはわかっているけど、あえて言わないでおく。


「あかーし」
「なに?」
「もう一個ちょうだい」


ほらやっぱり。みょうじの言葉ひとつで心踊らされてしまう俺はチョロいやつだと思われているのだろうか。たとえそうでも、お菓子ひとつでみょうじの顔が見られるんだから、俺は明日も食べもしないお菓子を買ってしまうのだ。


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