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最近になってようやくスコアブックの書き方を覚えたわたしは、前日の練習試合のスコアを初めてひとりで書いた。仁花ちゃんは書き方をすぐに覚えてしまったから、わたしも負けまいと授業中に一生懸命覚えたのだ(寝るくらいなら役に立つことしたほうがいいよね!)。マネージャーとして少しずつ成長していると思っていた矢先のことだった。


「みょうじ、ちょいちょい」


全体練習が始まる少し前。手招きする菅原さんのもとへ駆け寄ると手にはスコアブック。「これなーんだ」「スコアブックです」見たとおり答えた。菅原さんはなぜスコアブックを持ってそんなにニコニコしているのか。はっ、そうか、わたしが初めて1人で書けたスコアを見て、褒めてくれようとしているんだな!


「それ、わたしの書いたところ見てくれましたか?」
「うん、見たよ」
「完璧だったでしょ!スコアはマスターしましたよ!」
「うん、スコアはちゃんと書けてた」
「でしょ!……ん?」


菅原さんの指がページをめくる。そして丁度わたしが書いたページで止まる。うむ、我ながらよく書けていると自画自賛していると、菅原さんの指がこっくりさんよろしくスルスルと紙面を滑ってチームメンバーの欄でぴたりと止まった。


「あ、この試合菅原さん大活躍でしたよね!」
「うん、ありがとな。でもそこじゃなくて、ここ」
「ん?名前ですか?」
「そうそう、違和感ない?」
「皆無です」


わたしの即答に菅原さんは大きなため息を吐く。なんですかその哀れみの目は。


「マイネームイズ、コウシスガワラ」
「オ、オゥイエ」
「これ誰?くだはら?」
「ん?」


真正面にいた菅原さんがわたしの真横にやってきて、人差し指で空に字を書く。管、菅。「官の上、竹冠じゃなくて草冠なんだけど」


間。



「すっみませんでしたああぁあ」


なんのためらいも無く土下座を決めて体育館の床に額をこすりつける。もうこの際めり込みたい。めり込んで地球の反対側に行きたい。恐る恐る頭を上げて菅原さんを見ると、相変わらず笑顔。逆に怖い。


「許してくだせえお代官様」
「俺お代官様じゃないからね、草冠の菅原さんだからね」
「菅原さんこれ以上傷口を抉らないでください」
「俺ショックだったなあ、みょうじが俺の名前間違えるなんて」
「ひいい!もうライフが!」
「菅原さん泣いちゃう」
「ああああ泣かないで!いたいのいたいのとんでいけえええ!!!」


それ以来、なまえは二度と名前を書き間違えることはありませんでしたとさ。

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