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これの続き。


ずんずんと除雪された通学路を歩く。今日は大荷物だ。いつもの鞄と別に大きな紙袋には大量のチョコレートが入っている。今日はバレンタインデー、部員と先生の頑張りをチョコレートで労おう作戦。発案者は先輩である。ずっしり重い紙袋に昨晩の奮闘が思い出される。さらに一際大事に作ったチョコは別の紙袋にスタンバイ。待ち望んだような、来てほしくなかったような、そんな日の始まり。





放課後の練習が終わって片付けに差し掛かったころ、先輩と舞と目配せして器具庫に隠しておいたチョコを部員に配った。それはそれは大盛況で、先生にも好評だった。これは苦労した甲斐があるというものだ。異様な盛り上がりはしばらく続いて、先生の早く帰れ!といういつもよりどことなく優しい一声で解散となった。

わたしは散り散りになる中から慌てて一等高い背中に声をかける。「青根くん、ちょっと手伝ってもらっていいかな」振り向いてこくりと頷く青根くんに内心罪悪感を抱きながら器具庫へ誘導する。視界の隅にニヤニヤした舞と二口くんを捉えたが、気づかないふりをして足早に器具庫へ向かう。ああ、心臓が口から飛び出しそう。

重い戸を開けた先には数々の備品。そしてその奥に前もってわざわざ高いところに上げておいた新品のスコアブック。演出は舞、そして協力者は二口くんである。それほど埃被っていないうえに、なぜそんなところに置いたのかという不自然極まりないシチュエーションであるが、二人っきりになる口実を考えてくれた二人には心から感謝している。取ってもらっている間に隠しておいたチョコを背中に忍ばせる。真新しいスコアブックを受け取ってお礼を言ったら、さあ、試合開始だ。


「青根くん、あの…チョコなんだけど、実はもう1個あるの」


声が震える。急に器具庫まで呼ばれて手伝わされて、実はチョコがもう1個ありますなんてあまりにも突飛だけど、これでも今日という日のために準備してきたのだ。試合は始まっている。息が苦しくなるくらい緊張しているのをこらえて、必死に言葉を紡ぐ。


「初めて話したときに青根くんが助けてくれたおかげでバレー部に入って、毎日すごく楽しいです。ありがとう。チョコ、受け取ってください…!」


なんだか何を言っているのかよくわからなくなってきた。感謝の気持ちはちゃんと伝わっただろうか。わたしはあのときみたいに真っ赤な顔。感謝の気持ちを改めて伝えることはなんだかとても照れくさい。不純な動機でバレー部に入ったことに変わりはないけど、後悔したことはない。こんなに毎日が充実してて楽しいなんて思わなかった。本当に、青根くんはわたしの恩人だ。

すっと手が伸びて紙袋が青根くんの手に渡る。わたしが持っていたときより随分と小さく見える。蛍光灯が照らす青根くんの表情は口を真一文字に結んだままだけど、こくりと大きく1回頷いた青根くんにほっとして、ようやくわたしも自然と口角が上がる。


「ありがとう。汗冷えるといけないし、帰ろうか。わざわざごめんね」


ちゃんとチョコを渡せたという安心感で緊張が一気に緩む。ああ本当によかった。あとで舞と二口くんにお礼言わないとなあ。ふわふわした気持ちで体育館を後にして、最後に青根くんにバイバイって言って帰ろうと振り向くと、大きな手がすぐそこまで迫っていた。少しびっくりして、どうしたの?と聞けば、さっきわたしが渡した紙袋を前に出して、ゆっくりと口を開いた。


「みょうじ、ありがとう」


青根くんはそれだけ言って部室の方へ歩いていってしまった。ぽつんと残されたわたし、今どんな顔をしているかわからない。


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