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目を覚ますとそこは見知らぬ土地であった。隣に温もりを感じて慌てて体を起こす。どうやら寝すぎて隣の人にもたれてしまっていたらしい。申し訳ない。あ、そうだ、今隣にいるのは、


「ん、起きたか」
「うわあ…ごめん寝てた」
「疲れてんだろ」
「ううん、重かったでしょ」
「別に重くねえし俺だからいいだろ」


岩泉くんの意味を含んだような言い方にちょっと嬉しくなる。きっと隣にいたのが違う人だったら怒ったんだろうな。想像したらその姿が思い浮かんで笑ってしまった。


「何笑ってんだよ」
「秘密」
「そーかよ」
「拗ねた?」
「そんくらいで拗ねるか」


そう言いつつも口をへの時にしている岩泉くんがなんだか可愛くて「隣にいてくれたのが岩泉くんでよかったなーって思ったの」と言うと、「みょうじって突然恥ずかしいこと言うよな」と言ってそっぽを向いてしまった。照れてる照れてる。声を出して笑ったところで、ふとここが電車の中ということを思い出す。慌てて車内を見渡すと、わたしたち以外の乗客はいない。


「あ、すごい。貸し切りだ」
「さっきの駅からな」
「へえ、なんかラッキーだね」
「そうか?」
「そうだよ。ところで、ここどこだろうね?」
「さあ…俺こんなとこ初めて来たわ」
「私も。真っ暗だね」


車窓に映る景色はこれといった変化もなく、たまに電灯がぽつんとあるくらい。夕日はもう落ちてしまったらしい。


「岩泉くんずっと起きてたの?」
「あー…まあな。起こさなくて悪かった」
「ううん、わたしこそごめん」
「なんでみょうじが謝んだよ」
「岩泉くん優しいから気遣わせちゃったかなーと思って」
「……優しいとかじゃねえよ」
「え?」
「なんつーか…」


もうちょっと一緒にいたいと思って起こさなかった、と。岩泉くんだって充分恥ずかしいことを言うじゃないか。目がばっちり合って、逸らせない。岩泉くんの顔は赤いけど、わたしの方が絶対赤い。電車の音が聞こえなくなるくらい心臓がうるさい。


「ごめん」
「あ、ううん!嬉しい…です、へへ」
「みょうじ今日やたらニヤニヤしてんな」
「えっ、ごめんキモい?」
「まあ可愛いけど」


――まもなく……、……です。

車掌さんのアナウンスで次の駅が近いことを知る。正直このタイミングのアナウンスはわたしにとって助け舟だ。このままだったら心臓が爆発してしまいそうだった。岩泉くんってこんなにストレートに誉め言葉を言う人だったっけ。


「降りるか、次で」
「あ、そうだね。帰れるかな?」
「帰れんだろ、」


俺が帰さなかったら、とニヤリと笑う岩泉くんはやっぱりいつもとちょっと違う。明日は火曜日だから学校なんだけどなあ。帰してもらわないと困るなあ。なんて頭の片隅にはあるのに、口から出た言葉は「じゃあ帰さないで」で。何言ってるんだわたし。

電車がゆっくり停車して、ドアが開いた。降りる人はいない。そうしたらドアが閉まって、また電車が揺れ出した。車掌さんが次の駅名をアナウンスするけど、やっぱり知らない。降りようって言ったのに、これじゃあしばらく帰れそうにないね。重ねた唇が熱を帯びる。ね、貸し切りでラッキーだったでしょ。

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