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事の発端はわたしにある。幸男が帰って来るのを待たずに切れてしまった蛍光灯を替えようとしたのが悪かったのだ。脚立を用意して、転落したときの衝撃を申し訳程度に和らげる布団を脚立の周りに敷いて、さあ交換しようと脚立に足を掛けたところで幸男が帰宅。そのままスーパーお説教タイムに突入である。いや、悪かったと思ってるけどさ、夕飯作ろうと思ったらキッチンの電気がつかなくてそれで…なんて弁解に聞く耳を持たない幸男は近々パパになる男である。


「大体お前は自覚がないんだよ」
「すみません反省しています」
「前にも同じこと言ってたけどな」
「だから今回は布団を…」
「布団敷こうが何しようが関係ねえ。危ないことはするなって言ってるよな?」
「はい…」


ダイニングテーブルを挟んで行われているお説教はちっとも終わらない。怖いパパでちゅねえ、とお腹の赤ちゃんに同意を求めると、そうだそうだと言わんばかりにお腹を蹴られた。よく出来た子だ。


「ほら、この子もそうだって」
「俺に言われてもわかんねえよ」


それもそうかと納得していると、「いたっ!」幸男のでこピンがおでこにクリーンヒット。妊婦さんになんてことを!なんて騒いでいると、心配させた罰だと一喝された。言い返せずにいると、埃舞うからそこにいろよと一言言って立ち上がり、キッチンの蛍光灯を換えてくれた。


「ん、替えたぞ。こんなのいつだって替えてやるし、飯だって作るの大変だったら買ってくるから、無理だけはすんな。お前の体のほうが大事だろ」


ああもう、本当に優しいなあ。真っ直ぐな言葉はなんだかくすぐったい。本当はお説教もわたしのためだってわかってるよ。


「……ありがとう」
「…熱でもあんのか?」
「はあ?たまにはちゃんと感謝しようと思ったのに!」
「えっ、あ、悪い…」
「もういいです!早くお風呂入って!」
「なまえ、悪かったって…」
「お風呂の間にご飯作るから、は、や、く!」


むぐ、と黙り込んでしまった幸男は少ししょんぼりしてお風呂へ向かった。ちょっとムキになってしまったことを反省しつつ、あんまり見られないしょんぼりした幸男を可愛いとか思っちゃったりして。さて晩ご飯に取り掛かろうと椅子から立とうとして、ふと目に留まった高校の集合写真。今ここにいることがどれだけ幸せなことかを再確認する。女の人が苦手な幸男へのアプローチはそりゃあもう大変で、高校時代の友達の中ではもはや伝説として語り継がれている。それでも、晴れて付き合って、結婚して、今わたしのお腹の中には赤ちゃんがいる。昔夢見ていたことがこうしてどんどん現実のものになっていくのは当たり前じゃないことはわかっている。今ある幸せをくれたのは幸男だってことも。


「君のパパはちょっと怖いけどすっごく優しいから、安心して出ておいでね」


そっとお腹をなでると、お腹の中からお返事。パパもママも君に会えるの楽しみにしてるからね。


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