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「みょうじさんって及川くんと付き合ってるの?」もうこの質問にはうんざりだ。この質問にわたしは決まって「ただの幼馴染」と答えるのだ。そう、ただの幼馴染。それ以上でも、それ以下でもない。そうとわかると、女の子たちはわたしを自分の都合のいいように使う。「及川くんって付き合ってる人いるの?」「いない」「及川くんって好きな人いるの?」「知らない」わたしが徹の全てを知っているわけがない。ただ、彼女がいないのは確かだ。それは徹が誰かにずっと片思いをしているから。これを知っているのはわたしだけ。わたしは徹の特別な幼馴染なのだ。





中学の卒業式の日。わたしは徹に告白されて、それを断った。いつからか、徹の好きな人がわたしなんじゃないかとなんとなく気付いていたが、幼馴染という関係が崩れるのが怖かった。たとえ高校が違っても今までみたいに普通に会えると思っていたし、わたしがそうであるように、徹にとってもわたしはずっと特別だと思っていた。

それがどうしたことか。高校に入ると徹は手の届かない人になってしまった。部活が忙しいのか全く姿を見ないし、一番最近見たのはテレビに映った徹だった。相変わらずの整った顔と軽口だった。なんとなくほっとした。

とある月曜日、ちょうど切らしたペンを買いに出たら、徹がいた。見かけたなんてものではなく、ばったり出会った。見知らぬ女を連れていた。手を繋いでいる。


「誰?」
「友達だよ、中学まで一緒だったんだ」


徹にべたべたとくっつく女は怪訝そうな目で私を見た。そうかと思うと、徹に上目遣いで媚びた笑顔を向けて「早くしないと始まっちゃうよ」と猫なで声でせきたてた。徹は「そうだね」と笑顔で答えて、「それじゃあ、元気でね」と言い残して、わたしの横を通り過ぎて行った。

あれは誰だ。あんなのが徹なわけない。あんな醜く下品な女を連れているわけがない。徹はわたしの特別で、わたしも徹の特別なのだ。あんな女よりわたしを選ぶはずだ。あれは徹の殻を被った別人だ。わたしの知っている徹はどこかへいってしまった。徹はどこ?探しに行かなくちゃ。ああ、足が鉛のように重くて動かない。

刺すような虚無感のなか、わたしの心はタイムスリップして、町内会のお祭りの肝試しにいた。徹はちっとも進もうとせず、わたしの後ろに隠れている。


「もう怖がりだなあ」
「だって…」
「そんなんじゃ置いていくよ!」
「えっ嫌だ!待ってよ!」
「じゃあ早く行くよ」
「うう…」
「ほら、手繋いだら怖くないでしょ」
「……うん!」


あの頃の自分の言葉がリフレインする。怖がりはわたしで、置いていかれたのもわたしで、繋いでいたはずの手を離したのもわたし。君は今きっとわたしのことなんて忘れてあの子と楽しそうに笑っているだろうから。わたしはひとり、暗くて冷たいここに呪縛霊みたいにずっといる。きっとあのとき君が怖がってたおばけはわたしだよ。


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