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じわりとにじんだ汗をハンカチで押さえる。この汗はただ単に暑いからなのか、それとも緊張してなのか。今日は大地さんが運転する車に初めて乗る。待ち合わせ場所はいつもの農協前。高校のときから休みの日のデートの待ち合わせ場所といったらここだった。前日の晩、部屋を散らかして一生懸命選んだ服がやっぱり似合ってないかもしれないとか、化粧がおかしいかもしれないとか不安になるのもいつものことだ。そこへ一台の白い軽トラック、通称軽トラが現れた。運転席には大地さん。目があって、手を上げてくれた。それにしても似合いすぎている。軽トラがこんなにも大地さんのかっこよさを引き立たせるものだったとは。大地さんの運転する軽トラはゆっくりと減速しながら進み、助手席のドアがちょうどわたしの前にきたところでぴたりと止まった。


「大地さん大地さん!ほんとに運転してる!」
「はは、なんだそれ。そりゃ免許取ったからな」
「うわーすごい!すごいです!」
「そんなに褒められると恥ずかしいな。とりあえず乗りなね」


ついこの間までわたしと同じ高校生だった大地さんが急に大人になってしまったような気がする。ちょっとだけ寂しさを感じたけど、大地さんの笑顔を見ればそんな気持ちはかき消される。エアコンをつけずに窓を開けているところが大地さんらしいなあ、とか思ったりして。それでも初めて大地さんの車に乗るんだと思うと緊張してしまう。お邪魔します、と恐る恐るドアを開けて足を踏み入れた。


「そんな緊張しなくていいから」
「あっはい、すみません」
「俺が事故起こすとか思ってる?」
「それは大丈夫です!大地さんのことだから安全運転だって信じてます」
「意外と飛ばすかもよ?」
「えっ」
「嘘嘘。大事ななまえが乗ってるのにそんなことしないよ」


大地さんは意外と恥ずかしいことをさらりと言ってのけてしまう。わたしはその度に嬉しさと恥ずかしさでだらしなく緩む頬を手で覆う。ああ熱い。シートベルト着けてね、と言う大地さんの言葉に従うと軽トラはゆっくりと発車した。


「わたし軽トラ久しぶりに乗りました」
「へえ、乗ったことあるんだ」
「おじいちゃんが運転してたんです。昔は荷台に乗るのがすごく好きだったなあ」
「あー楽しいよな、あれ」
「はい、立ってたら助手席のおばあちゃんにすごく怒られました」
「あはは、そりゃだめだ」


髪が揺れる。長閑な風景が流れていく。いつも通っているはずの道、こんな感じだったっけ。なんだかあの、軽トラの荷台に立ったときみたいな、見るものみんなキラキラしてる。「んー、なんかいつもと違って見えるなあ」どうやら大地さんも同じらしい。わたしもそう思いますと言うと、大地さんは以心伝心ってやつか?と笑った。車を運転してなかったらこの笑顔を正面から見れたのになあ、なんて思ってしまうわたしは相当大地さんが好きらしい。

近況報告をしながら目的地のないドライブは続く。ドライブがこんなに楽しいものだなんて知らなかった。それから、自分がこんなに欲張りなことも知らなかった。2人で同じ景色を見て、同じ時間を共有して、十分かもしれない。だけど、どうしても目が大地さんの大きな手を追ってしまう。車運転してたら、手、繋げないんだなあ。


「なまえごめん、ちょっと止まるよ」


だだっ広い田んぼと田んぼの間の道を走っていたところ、大地さんが急に路肩に車を止めた。


「大地さん、どうかしましたか?」
「……俺は我慢したからな」
「はい?」


大地さんの言葉の真意がわからず、頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。再び質問しようと口を開こうとしたとき、膝に置いていた手にごつごつした手が重なった。


「なまえって結構わかりやすいよな」
「……すみません」
「ごめん、俺もう我慢の限界」


口を開く間もなく、いとも簡単に唇を奪われてしまった。重ねた手は絡み合う。風はぴたりと止んで汗がにじむ、混じり合う。ここが車の中だとか、誰かに見られちゃうかもしれないとか、そんなことは後で考えればいいや。ですよね、先輩。

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