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席替えは憂鬱だ。何せわたしのくじ運は壊滅的で、毎度毎度男子ばかりに囲まれてしまうのだ。男子と話すのがあまり得意でないわたしは近くの席の子と友達になるなんてこともできず、陸の孤島にひとりぼっちである。そして今回の席替えもどうやら同じ結果に終わりそうで、窓際のわたしの席の周りには続々と男子が集まってきている。残る席はあと一つ、隣だけだ。どうせまた男子なのだろうとちらっと隣に目をやると、机を持っている手があんまり大きくて、思わず大きい手、と呟いてしまった。それはこの度隣の席になった大きな手の持ち主、木吉くんにも聞こえてしまっていたようで、よく言われるよ、とにこやかに返された。


「隣になったの、初めてだよな?」
「うん、よろしく」
「こちらこそよろしく」


当たり障りのない会話を交わしてこれで会話終了と思いきや、大きな字で黒飴と書かれた袋が突如としてわたしの目の前に差し出された。


「黒飴食べない?」
「…黒飴?」
「ああ、うまいぞ。ほら」
「あ、ありがとう」


そんな感じで私の新たな席での生活は始まった。



* * *




席が隣になってからというもの、木吉くんはやたらと話しかけてきた。男子が苦手なわたしも毎日にこにこ他愛のないことを話してくれる木吉くんのことは決して嫌いではない。むしろ今まで男子に囲まれて至極窮屈で退屈だった生活に射した一筋の光のように思えた。彼が毎日くれる黒飴も遠慮なく頂き、わたしもお返しのお菓子を持ってくるようになった。友達からは早くくっついちゃえばいいのになんて言われている。わたしも木吉くんに対する好意はたあるけど、それが恋愛的な好意なのか友好的な好意なのかはわからない。これも今まで男性との交流が少なすぎたせいか。


「前から思ってたんだけどさ、みょうじの手って小さいよな」


唐突過ぎる振りに固まってしまった。だって授業が終わって教科書を片付けているときに、だ。何を考えてそういう発言になったのか。そしてなぜこのタイミングなのか。ぐるぐる思考は巡るが、答えは見つからない。


「おーい、みょうじ?」
「!、はいっ」
「聞こえてた?」
「あ、うんうん。わたし手小さくないよ」
「えーそうか?だってほら、」


こんなに違うだろ?と、手を合わせる木吉くんは満面の笑みで、はじめ何が起こっているのかわからなかった。一瞬沈黙して状況を理解すると、顔と手は異常なほど熱くなった。手を引こうとすると今度は木吉くんのごつごつした指がわたしの指に絡んでぎゅっと握られてしまった。わたしの指は真っ直ぐのまま、硬直。


「きよっ、木吉くん?!」
「つっかまーえた」
「何を?!えっ?!」
「やっぱりみょうじの手は小さいなあ」
「そういうことじゃなくて!」


わたし手汗がすごいからとか、恥ずかしいからとかいろんなことを言ってみたけど、木吉くんは一向に手を離してはくれない。木吉くんはここが教室で今は授業間の休み時間だということをわかっているのだろうか。数名のクラスメイトはこの異常な状態に気付いたらしく、好奇の視線を向けている。一刻も早く逃げ出したい。ああだこうだといろいろ考えてみても現状は変わらない。木吉くんはにこやかにわたしの手を握ったままだ。


「あーどうしよう。離したくなくなっちゃった」


離したくなくなっちゃった、じゃないよ。そんなこと言うからさ、わたしも手握り返しちゃったじゃない。今この瞬間、わたしの好意は恋愛的な意味で確定した。


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