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週明け。始業ギリギリに教室に入るとマスクをしたみょうじがいた。いつもすっぴんなのですっぴん隠しではない。とすると、風邪でもひいたのか…なんて考えていると、咳き込み出した。これは風邪で確定。そしていつもよりぐったりしているというか、あれ絶対無理してるよな。様子を伺いつつそろりと近づいてみる。


「うっす」
「ああ二口、おはよう」
「マスクなんかしてプロレスでも出るつもりかよ」
「そのマスクじゃない、ごほっ、し、出ません」
「おいみょうじ菌撒くなって」
「うるさい、そのためにマスクしてるでしょ。そもそもみょうじ菌ってなによ」
「みょうじのバカさが詰まった菌」
「自分がバカで風邪ひかないからって羨ましがらないでいいよ」
「はあ?俺はちゃんと体調管理してんだよ」
「二口がバカすぎて菌のほうが逃げてんじゃないの」


こうして話していてもタイミング関係なく咳が邪魔をする。顔色も悪いし、これ熱あったりするんじゃないか。みょうじのことだからたぶん家ではそんなことなかったから大丈夫だと思って…ってな感じだろう。無理せず休めばいいのに、本当変なところがくそ真面目っていうか、俺から言わせてもらえばバカなんだけど。ほっとけないんだよなあ。もしかして、と思い額に手を当ててみるとそこは明らかに熱を持っている。ああもう、こいつはほんとに!


「は?!なに?!」
「みょうじお前、」
「……なに?」
「まじでバカだな」
「はあ?」


この宇宙人NASAに連行してくるから、と隣の席のクラスメイトに告げた。頼むぜメガネくん。みょうじの二の腕を掴んで椅子から引っ張りあげる。当人はわけがわからない様子で慌てて俺に毒づいているが、それを軽くあしらう。いつもと違う調子にみょうじも戸惑っているようだ。人のまばらになった廊下を腕を引いてずんずん進んでいく。ちらほらかかる冷やかしの声も一蹴する。


「どこ行くの?!」
「NASA」
「冗談抜きで、ねえ」
「さあな」


先生に会わなさそうな順路を選んでいるおかげで、本当に誰にも会わない。うっかり先生に出くわすと色々と面倒だからこれはラッキーだ。教室のある3階から階段を降りて1階に着いた頃、それまで口を閉ざしていたみょうじがおずおずと話しだした。


「……もしかして保健室?」
「ピンポーン。正解」
「別に大丈夫なんだけど」
「うるさい、行くぞ。きもいから」
「きもいのはいつものことですけど」
「お前まじでかわいくねえな」
「二口にかわいいとか思われても嬉しくない」
「へいへいそうですか」


いつもかわいいと思ってるなんて言ったらどういう顔をするだろうか。いつも冗談ばっかり言ってる手前、今さらそんなことは言えないし言ったって信じてくれるはずもないけど。なんだかんだ言いながら保健室の前に到着。ここで俺はお役御免だ。若干強引だったけどこうでもしないとみょうじはきっとあのまま授業受けてただろうしな。


「じゃあな。寝てろよ」
「ん。……二口、」
「どうした?」
「……ありがとう」


ああああ!なんだよこいつ!今まで強がっておいて最後にデレるとか反則じゃねえの。これを計算じゃなく素でやってるところがまた恐ろしい。こんな俺の心の内もみょうじは全く知らないんだよなあ。照れ隠しに今度奢れ、と言うとみょうじは気が向いたらね、と笑った。よし、これで一緒に帰る口実ができたぞ。

さっきの突然のデレのせいで顔は熱いし身体中から変な汗が噴き出しているから、そろそろ本当に退散するとしよう。このままだとみょうじに俺の気持ちがバレるかも…いや、それはないか。何せこいつはムカつくくらい鈍感だからな。とはいえ、赤面してるところはプライド的に見られたくない。じゃあな、と踵を返して来た道を戻る。予定を変更してトイレにでも行くことにしよう。こんな真っ赤な顔じゃとてもじゃないけど帰れない。あーくそ!俺も熱出そうだっつーの!


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