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スポーツ推薦のやつらが集まるこのクラスではホームルームが終わるとみんなすぐに部活に行くため、教室は一気に静まり返る。今日日直の俺はそのなかで日誌にペンを走らせている。今日も特に変わったことはなかった、と締めくくって俺の今日の仕事はほとんど終わりだ。ただ、俺は担任を恨みたい。なぜ日直が二人一組なのか。もう一人の日直が女子なのか。

書き終わった日誌を渡したいのだが、女子に声をかけることは俺にとって至難の業だ。早く部活に行かなければならないのにもたもたしてしまう自分に腹が立つが、こればかりはどうしようもない。とりあえずと思い、日誌を閉じてペンケースを片付けていると陰が。


「書き終わった?」
「お、おう」


しどろもどろな返事になってしまった。今ので気を悪くしたかもしれないと思ったが、顔色を伺う勇気もなくペンケースを鞄にしまおうとしていると、みょうじがシャーペンを貸してほしいと言ってきた。ふるふると震える手でシャーペンを渡せば、ありがとうと言ってそのまま隣の机に座って日誌を書き出した。俺はみょうじが書き終わるのを待つことにした。このまま貸して帰ってもいいのだが、明日返してもらうときに森山あたりに冷やかされそうなのが目に見えているからだ。


「笠松くんさあ、女子と話すの苦手なの?」
「、まあ…」
「やっぱり。わたしも苦手なんだー」


突然話しかけられたことと、みょうじも女子が苦手なことに驚いた。みょうじはいつもクラスの中心にいて男女共に友達の多いいわゆる人気者だからだ。女バスのキャプテンとしてもリーダーシップがあり、評判もいい(と、森山が言っていた)。そんな彼女がまさか同性である女子が苦手だなんて。聞けば女子特有の妬みや僻みなどのどろどろした話が嫌いらしい。なるほど、女子は大変だ。男にもそういうやつはいるが、俺の周りのやつらはそんなことがないので恵まれているのだと思う。それから気付いたことは、みょうじは自然体で全く媚びていないので、女子のなかでは話しやすい。女子とまともに話をしたことがない俺がこんなことを言うのもおかしな話だが。


「羨ましいなー男バスのみんな」
「…は?」


何の脈絡もない言葉にきょとんとしてしまった。わけが分からないでいると、わたしも笠松くんとバスケしてみたいの、とみょうじが目を細めた。それを見てどきつく俺の心臓。


「1on1ぐらいなら、」
「してくれるの?」
「…まあ、一応」
「うそ、ほんと?!やった!」


自分で言っておきながら一応ってなんだと思ったが、みょうじは喜んでくれたようだ。小指を俺のほうに差し出して約束だよと言ってまた笑った。震える小指を差し出せば、少し強引に指を絡められた。やっべ、試合のときより緊張してるかも。


「約束破ったら女子いっぱい連れて笠松くんのところに押し寄せるからね」
「それはマジで勘弁…」
「じゃあ絶対ね」
「…おう。で、書き終わったか?」


空いている方の手で日誌を指させば、みょうじはまだ途中!と慌てて小指を離して日誌の続きを書き始めた。指の感覚が名残惜しいなんて思ったのは初めてだ。そのあとみょうじが先生に出しておいてくれるというのでお言葉に甘えて俺は一人部活に向かった。これ以上部活に遅れるわけにはいかない。とはいえ、みょうじ一人に任せてよかったのかと後になってうだうだと考えてしまったおかげで、俺の今日のプレーは散々なものだった。こんなことなら任せるんじゃなかった。今度一緒になったときは最後まで仕事をすることにしよう。


あ、シャーペン。

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