log | ナノ



これの続き


わたしは今全力で逃げている。何からって新聞部から。なんでもわたしと日向の例のおんぶ事件がきっかけでわたしたちが付き合っているという噂が流れたらしい。誰に何を聞かれてもとりあえず全否定したおかげであまりことが大きくならずに鎮火したのがせめてもの救いだ。しかし、それでもまだわたしと日向が付き合っていると信じて止まないやつらがいた。それが新聞部だ。正直わたしは新聞部なんて部活があること自体最近まで知らなかった。靴箱近くに貼ってあるこの学校の歴史を綴った模造紙も常にカメラを携帯している怪しい集団も、生徒会でもなく写真部でもなく実は新聞部だったのだ。新聞部の特徴としては、しつこいことが第一に挙げられる。登校中でも昼休みでも果ては部活中でも所構わず「バスケ部キャプテンの日向くんと付き合っているんですよね?!」と芸能記者ばりにぐいぐいくる。ICレコーダーまで用意する徹底ぶりだ。毎日こんなだからノイローゼにでもなりそうなわたしはこういうわけで今日も今日とて全力で逃げ回っているのだ。

昼休みにお昼ご飯をかきこんでいると、みょうじさん!と新聞部の女子がやってきた。食べかけのお弁当をリコに預けて廊下を全力疾走して、あらゆる手を使ってどうにかその子を振り切った。息も上がって足もパンパン、今すぐにでも座りこみたくなってふと目に留まった社会科教室で休憩することにした。ドアをそっと開ける、きょろきょろ。誰もいないようだ。教卓の陰に腰を下ろしてふーっと息を吐く。最近ずっと逃げ回っているせいか以前より体力がついたような気がする。体力はあるに越したことはないが、まさかこんな形でつけることになるとは思わなかった。乱れた息を整えていると、奥のほうから上履きと床が擦れる音がした。まさかここに伏兵が…?!一気に緊張が張りつめた。いつでも逃げられる体勢になってちらっと覗いてみると、そこには大の字になった日向がいた。一気に緊張の糸がほどけた。


「なにしてんの日向…」
「…みょうじ?なんだお前かよ、びっくりさせんなダァホ」


なにそれちょっと失礼じゃありませんか。なんだとはなんだ。話を聞くと日向もわたし同様逃げていてここに隠れていたらしい。で、わたしが入ってきたのを新聞部の人が来たと勘違いして、もうどうにでもなれという意味の大の字だったらしい。


「お互い大変だねえ」
「あいつらしつこすぎんだよ」
「クラッチタイム入って追い返してよ」
「それができたらとっくにしてるっての」
「ですよねー…」


ふたり同時に溜め息を吐いた。あの人たちはいつまでわたしたちをネタにするつもりなんだろう。もっと面白いネタなら他にいくらでもあるだろうに。よっぽど暇とみえる。やはりここはこの噂よりももっと食いつきそうな何かを作るべきか。かといってまた違う人に被害が及ぶのも罪悪感がある。うーん、どうしたものか。「俺、提案があるんだけど」流石だよ日向。期待の眼差しで見つめた。


「俺たち、付き合わないか?」
「……は?」
「あ、いや!本当にじゃなくて仮に!この騒ぎが収まったら別れたことにすればいいし。それなら新聞部のやつらも納得するだろ」


なるほど、一理ある。はじめは何を血迷ったのかと思ったが、今のこのふざけた状況を打破するにはそれが一番いいのかもしれない。全く知らない人だったらいろいろと面倒だが、日向なら別に問題はないだろう。


「その作戦、乗った。しばらくよろしくね、じゅ・ん・ぺ・い」
「おまっ、それは今まで通りでいいんだよダァホ!」
「いだっ!」


これはいわゆるDVにあたるのではないかと思いつつ、わたしも負けじと脇腹を肘で小突いて、痛みに耐える日向を鼻で笑ってやった。あ、これは逆DVになるのだろうか。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -