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私は今謎の数式が書かれた紙と格闘している。x?y?何ですかコレは。もはや呪文にしか見えない。難しく言ってみたけど、つまり数学のプリントをしてるってことです。何せ前のテストがあまりにも悪かったものでね。

どうやらこんなにテストが悪かったのはわたしだけみたいで、先生からの長い長いお説教の後、一人教室に残されてこれと格闘している訳だけど、如何せん分からない。そもそも分からないからここに残ってる人にこんな大量のプリントを渡しといて一人で解けって先生、アンタ鬼だよ。

もはや諦めの境地に入ったわたしは、窓の外のサッカー部を眺めていた。ギラギラと照りつける太陽を跳ね返す勢いでボールを追いかけている。みんな青春してるなぁ。あ、松風くんと西園くん。よくあんなに楽しそうに体動かせますね。わたしなんてちょっと走っただけで息切れるんですけど。そういえば確か剣城くんもサッカー部だったよね、今は居ないみたいだけど。剣城くんよくサボってそうだもんなぁ。まぁ、あんまり話したこと無いからどんな人かはよく知らないんだけど。


「みょうじ、」
『つっ、剣城くん!?』
「何そんなに驚いてる」


剣城くんのことを考えてたら突然剣城くんご本人が登場したからびっくりしました!…とか口が裂けても言えない。なんか口が裂けるよりヤバいことになりそう。例えばあの腕につけたトゲトゲとかで殴られたり。…あはは、やばい。


「いや、あんまり突然だったから」
「そうか」


わたしの返答はどうやら剣城くんの機嫌を損ねなかったみたいでなんとかあのトゲトゲで殴られるのは避けられた。が、剣城くんは明らかに数学のプリントをガン見してるわけで。出来れば見られたくない…うん、がっつり見ちゃってるよね。それにしてもわたし、剣城くんとこんなに話したの初めてだ。


「あの…剣城くん」
「……っ、」


………お?

わ、笑った?一瞬だったけど剣城くん笑ったよね?うわぁ、剣城くんの笑った顔とか初めて見た。なんか、かわいい。これがギャップってやつか。…って、何考えてんのわたし!自分で自分の頭をぽかぽかと叩いていると、冷めた声が聞こえてきた。


「何してる」


しまった、今は(何故か)隣に剣城くんがいるんだった。わたしは顔が真っ赤になるのを感じつつ、必死に両手でそれを隠した。剣城くんはそんなことお構いなしに大量のプリントを手に取った。


「なっ、ちょっ、え!?」
「いいから貸せ」


剣城くんはわたしが止めるのも聞かず、机に置いてあったわたしのシャーペンを取ると、隣の机に座ってプリントに何かを書き始めた。死ね!とかブス!とか書かれると思ったのに、剣城君が書いてるのは数式だった。酷いことを考えてごめんなさい剣城くん。


「お前がやってたんじゃ日が暮れるだろ」
「そうだけど、」


何でしてくれるの?とは言えなかった。剣城くんの問題を解く姿が物凄くかっこよかったから。わたしのシャーペンを持ってすらすらと問題を解いていく姿は真剣そのもので、周りの空気がぴんと張り詰めた気がした。わたしはその張り詰めた空間で言葉を発することが出来なかった。


「おい、出来たぞ」


張り詰めた空気の中でじっとしてたからもう1、2時間は経ったんじゃないかと思ったけど、時計を見てみるとほんの20分程度だった。あんなに大量にあったプリントがこんなに早く終わるなんて。びっくり、なんてものじゃない。しかもわたしには解読できない数式が綺麗な字で書いてある。剣城くんって頭いいし字も綺麗だったんだ、知らなかった。ああ、とりあえずお礼言わなきゃ。


「剣城くん、ありがとう」
「別に、ただの気まぐれだ」
「でもこれ、ほんとにありがとう」
「…ああ。じゃあな」


剣城くんはいつものようにポケットに手を突っ込んで教室を出て行った。剣城くんが出て行ってしまった教室はしんとして、無意識のうちにさっき起こったことを思い出してしまう。考えただけで心臓はどくどくと激しく脈打って体中には目まぐるしく血が廻る。ああ、そうか。これが恋ってやつか。

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