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夏は嫌いだ。暑いから。あ、それから蚊に刺されるからってのもあるかな。なんて言ってみたい。そりゃわたしは夏と冬どっちがいいか聞かれたら間違いなくわたしは冬を選ぶけども。なんせわたしが夏が嫌いな理由は夏休みがあるからだよ!普通の人なら喜ぶべきことなんだろうけど、わたしにとっては夏休みなんてものは地獄でしかない。補充地獄だ。ここ大事、補習じゃなくて補充ね。そうですわたしが欠点保持者です。なんでこの暑い時期に教室に監禁されなくちゃならないんだ。わたしはこの夏休みバイト入れまくって大学の入学金の足しにしようと思ってたのに。こんな親孝行な女子高生の願いを打ち砕くなんて悪趣味にも程がある。まあバカだからって言ってしまえばそこまでなんだけど。そして先生はといえば大量のプリントを配って満足そうな顔をして出て行ったきり帰って来ない。質問があるんですけどどうすればいいですか。何故わたしのプリントにだけかわいらしいぞうさんの絵が描いてあるのかと、九九の練習みたいなプリントが含まれているのかをせっかくなので図も交えながら丁寧に教えていただきたい。同じ教室にいる1年生のプリントと間違えたのかと思ったけど、1年生のプリントにだってこんなかわいらしい絵は描いてない。つまりあれか、わたし専用ってやつか。ひどい。いくらバカなわたしでも九九くらいは言えるっての。何なら難しいところ言ってやろうか?8×6=48、8×7=56、8×8=72…ん?あれ、8×8って72だっけ?……もうわかりません!どうしよう!わたし今高2だよね?これは人権侵害だ!畜生あいつ教師の風上にも置けねえ。問題を解くのを諦めて机に肘を突いてペン回しに勤しむことにした。そんな時間があれば勉強しろって?いやいや、出来ないからペン回してんだよ。そしてペン回しだけが上達する夏の補充。


「遅れてすんませーん」


急にドアを開けて入ってきた黄色、もとい黄瀬涼太は教室中を見回すと目をぱちぱちさせた。状況を飲み込めないでいるようだ。そしてそんな黄瀬涼太を見て騒ぐ女子ども。ってわたしも女子か。こいつも実はバカのようだ。容姿よし運動よしでも流石に天は三物までは与えないか。にしてもデカいな。こんなデカかったら「あの、すません」いろんなとこに当たりそうだな。ってかもう成長は止まったのか?もしこれ以上デカくなるならそりゃ単純に「おーい」すごいわ。女子の平均身長くらいしかないわたしからすると黄瀬タワーだ。


「おーい、聞こえてるっスか?」
「え、は?わたし?」
「あ、やっと返事してくれた」
「ああごめん、考えごとしてた」
「え?!思いっきり目合ってたじゃないスか!」


黄瀬涼太は爆笑しだした。どうしたモデル。そんなことより首が痛いです。わたし椅子に座ってるんで一番前の席で映画見てる感じがします、ええ。…こいついつまで笑っとんじゃコラァ。女子どもの視線が痛いんですけどどうしてくれるんだ。女の子は味方にしても敵には絶対したくないよ。だって怖いもの。頼むから早く消えてくれ。あらぬ噂を立てられてわたしの素敵なスクールライフが崩壊する前にただの他人だということを強調して出て行ってくれ。なんて思ってたら今度はわたしの席までやってきた。おい、そんな展開誰も望んでないぞ。


「仁谷先生ってここの担当っスか?」
「たぶんそうだけど」
「じゃあ先生来るまでここで待ってることにするっスわ」


そう言うとわたしの隣の空いた席にどかっと座った。座高低。さすがモデル、腐ってもモデル。いや別に腐っちゃいないんだろうけど。ってそんなことよりなにちゃっかり隣に座ってんだよ。ほら見ろ女子どもの視線が殺気に変わったよ。ここで帰れとか言ったらそれはそれで殺されそうだからそれとなく帰れオーラを出さなければ。マジめんどい。


「部活行かないといけないんでしょ」
「遅れるって言ってあるんで大丈夫っス」
「先生探してるなら職員室とかにいると思うからそっち行ったほうが早いと思うよ」
「それはあとでいいっス。それにここで話してるほうが楽しそうスし」


だからそういうことは言うなというオーラを含め今すぐ帰れオーラを全身から出しているだろう!!!お前は空気読めないのか。それともわざとしてるのか。わたしの素敵なスクールライフを粉々に打ち砕こうというのか。あー助けて笠松くん。いつもこいつを飛蹴りしているらしいじゃないか、噂は予々伺ってるのでとりあえず助けてください。飛蹴りでも平手打ちでもなんでもいいんで気が済むまで喰らわせて早く連れて帰ってください。


「名前なんていうんスか?」
「個人情報なんで」
「そんなこと言わずに!教えて欲しいっス」


バカかお前は。今わたしがここで名前をばらしたらここにいる女子どもによって校内の女子にあっという間に広がりわたしは黄瀬涼太をたぶらかした女というレッテルを貼られるんだぞ。なんで好き好んで自分から、はいどうぞ晒してくださいとでも言うような行為をしなくちゃならないんだ。自分のことは自分で守るよ!


「なまえさん?」
「は?」
「あれ、違ったっスか?」


いやいや、大正解だよピンポーンだよ。逆に何故わたしの名前知ってるんだ。さっき名前を聞いてきたのはフェイクか、初めからわたしを陥れようという魂胆だったのか。黄瀬涼太って怖いんだね、ただの黄色かと思ってたらとんでもない腹黒でした。


「断じて違います」
「違うんスか?」
「勘違いじゃないの」
「えーでもここにちゃんとみょうじなまえって書いてあるんスけど」


プリントぉおおぉおおお!なぜ1問も解いていないプリントに名前だけ書いたし!しかも妙にはっきりと誰でも見やすいように書いたし!わたしのバカぁああ!


「へへ、当たりっしょ?」
「わたしのことはいいからプリントやりなよ」
「プリント?」
「補充の。あんたも補充なんでしょ。先生待ってる間に進めといたほうがいいと思うよ」
「俺欠点1つもとってないっスよ?こうみえて結構要領いいんで」


じゃあ何故ここへ来た、何故ここにいる。そして天よ、何故三物を与えた。三物とまではいかなくても、欠点をとらないだけの点数を取れる学力をなぜこんなやつに与えたんだ。わたしにはなんの特技も、しいては平均以上の何かさえくれなかったのにひどいじゃないか。そしてこれからは全校の女子に白い目で見られることになるんだ。ああ女神様、天と女神様は別物だと思ってるので、とりあえず今の状況だけでも助けてください。そのとき、声が聞こえたような気がした。


"殴ってもいいのよ"


ありがとう女神様。お言葉に全力で甘えさせてもらうよ。


「どんだけチートなんじゃああぁあああ!」


腹部にグーパンチがクリーンヒットからの全力疾走。はははこれでわたしの素敵なスクールライフはおしまいだ。はははははは。


それから黄瀬に迫られ続けることになるのをわたしはまだ知らない。

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