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伊達工の女子は少ない。生徒のほとんどが男子のため女子は貴重な存在で、先輩方はその女子をなんとしてでも入部させたいらしい。部活勧誘の熱の入りようは異常だ。わたしは正直引いていた。あるときは馬の被り物をした先輩に追いかけられ、またあるときは大勢の兄弟かと思うくらいそっくりのメガネ先輩たちに囲まれ、トラウマになりかけている。

こんな勧誘も5日目に突入し、わたしの体力は搾り取られた。今日も廊下に待ち構えている先輩方をどう潜り抜けようかと考えていると、背の高い男子が教室を出ようとしているのが視界に入った。名前は青根くん。あまりにも背が高いからすぐ覚えた。これはいけるかもしれない。この大きな背中に隠れてそっと帰ろうそうしよう。

まだピカピカの通学バッグを肩に通して勢いそのままに、今にもドアを通過しようとする青根くんの背中ギリギリまで近づいた。どうか見つかりませんように。忍者よろしく息を殺して教室を出るはずだった。どんっ。作戦失敗。急に立ち止まった青根くんの背中に思いっきりぶつかってしまった。


「っあ、ごめん」
「……」
「スミマセン…」


くるりと振り向いて上から見下ろす青根くんの無言の威圧感にただただ謝ることしかできない。これで同い年なのか。勝手に隠れ蓑にしたのもぶつかったのもわたしが悪いから申し訳なさも相まってなんとも言えない。


「あ、なまえちゃん!今日はサッカー部見に来るよね?」


ここ5日でいちばんしつこい先輩の声に眉間に皺が寄る。さっきのやりとりでばれてしまったらしい。連日サッカー部のマネージャーに勧誘してくる目ざといチャラ男先輩。顔はイケメンだけど、このノリの軽さがどうも苦手だ。反射的に青根くんを盾のようにして隠れる。


「あれ〜なんで隠れちゃうの?照れ隠し?」
「違います」
「恥ずかしがってないで来てよ」
「いや…っ」


強引に腕を引かれ、青根くんに再びぶつかりながら教室の外へ引っ張り出された。待って、そんなにぐいぐい引かれたら、倒れる――!

ぐいっ。効果音をつけるとしたらそれだ。イケメンの顔は見るも無残に歪んでいて、その右頬には青根くんの手。もう片方の手はわたしの両肩を押さえつけていて、背中は青根くんの大きな体にぴったりくっついている。一瞬の沈黙のあと、チャラ男先輩は真っ青な顔をして走っていった。目線を上にしても青根くんの顔は見えないけど、なんとなく想像はつく。ヒューヒューと囃す声にはっと我に返り、今の状況を理解する。これは青根くんにうしろから抱きしめられているようなものじゃないか。急に恥ずかしくなって心臓も大慌てで動き出した。


「あの、ありがとう。もう大丈夫」


わたしの言葉に肩にがっしり置かれていた手が離れた。離れてもまだ感覚が残っている。顔が熱い。これは周りの人が冷やかすからだ。この際外野は無視して、振り向いて深くお辞儀をした。これは赤くなった顔を隠す意味もあったり。


「助けてくれてありがとう」
「いや……ぶつかって」
「…うん?」
「悪かった」


ぺこりと軽く頭を下げられても一体何のことを謝られているのかわからなかった。数秒経って、さっきわたしが青根くんにぶつかってしまったときのことを謝っているのだと理解した。青根くんがぶつかったというのは語弊で、わたしがぶつかってしまったので、青根くんは悪くないと何度も訂正するも、その度に「悪かった」と謝られてしまうので「気にしないで」と言うと納得してくれたのか頷いてくれた。どうも申し訳なさが残るけど、青根くんって結構頑固なんだな。この数分で今まで全然知らなかった青根くんを知ってしまった。そして、もっと知りたいと思う自分がいる。


「青根くん何部に入るの?」
「バレー部」
「そうなんだ。わたしもマネジャー、しようかな」


そしたら青根くんのことをもっと知れるかもしれない。こんな不純な動機、絶対誰にも言えないけど。

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