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「消しゴム貸してくれ」


好きな人からのその要求にわたしは今物凄く迷ってる。なんてったってわたしの消しゴムのケースで隠れた部分には南雲くんの名前が油性ペンで堂々と書いてあるわけです。そう、今時誰もしてないようなおまじない。しかもそのおまじないはその消しゴムを使い切るまで誰にも触られてはいけないという無理難題がつきまとう無駄にリスクの高いもので、もし何かの間違いで南雲くんが消しゴムに書かれた自分の名前を見たとしたら、それは私にとって恋の終わりなわけで。


「みょうじ、消しゴム貸してくんね?」


聞こえなかったと思ったのか、南雲くんはさっきよりも近い距離でゆっくりと話してくれた。これで貸さないのは人間性疑われるよね。といいますか、はじめから南雲くんから頼まれて断れるわけがなかったんですよね。


「いいよ、はい」
「サンキュ」


渡した、渡しちゃったよ。わあ、消してる消してる。って当たり前か。ガン見してたら消しにくいだろうし、黒板見てよう!…って、集中できるわけないじゃん!南雲くんはたくさん消すところがあるらしく、なかなか消しゴムは帰って来ないし。わああもう!なんてもやもやしてると、とんとんと肩を叩かれた。


「ん、」


南雲くんはそっぽを向いてノートの切れ端を二つ折りにした紙と一緒に消しゴムを返してくれた。よく分からなかったけどとりあえずそれを開いた。




――バーカ!俺も好き




お世辞にも綺麗とはいえない字で書かれた目を疑うような言葉に慌てて南雲くんの方を向くと、机に突っ伏した南雲くんの耳は髪の毛に負けないくらい真っ赤で、ああほんとなんだなって実感してしまった。それから授業の終わりを告げるチャイムが鳴るまではものすごく長かった。

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