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只今自販機前。ココアとミルクティーのどっちにするかで頭を悩ませている。なにをそんなくだらないことで、と笑うでない。これはわたしにとってこのあとのテンションを左右する大きな決断なのだ。隣で早々にコーラを買って飲んでいる高尾は早く決めてよと急かしてくる。よくもまあわたしの重大な決断をそんな軽々しく。緑間を見習いたまえ、今日も安定のおしるこを自販機に着くや否や購入してそれからずっと黙って見守ってくれているじゃないか。


「やっぱココアかなあ…でもミルクティー…」
「みょうじってよくそんなことで長い間悩んでられるよな」
「んなっ?!失礼な!これはわたしにとってものすんっごい大事な「遅いのだよ」


ピッ、ガゴン

…み、みど、りま。今一体何を。わたしの見間違いじゃなければ今、今ここでおしるこのボタンを押したのではないか。目の前で起きた衝撃の事態に開いた口が塞がらない。恐る恐る取り出し口から取り出した缶には、でかでかとおしるこの文字が。


「……おしるこ、」
「いつまで経っても決めないから俺が決めてやったのだよ」
「うっわ真ちゃん鬼畜〜」
「うわぁああん!緑間の鬼!悪魔ああああ!!」
「こんな寒い中で人を待たせるほうが鬼なのだよ」


鬼なのだよじゃないのだよ!わたしの一日の楽しみを!こんなおしるこごときで満たされるような軽いものじゃないんだよこれは!今にも噛み付かんと言わんばかりに敵意むき出しのわたしは、緑間に思いつく限りの暴言を吐いた。(後に高尾から聞いた話だと幼稚園生の癇癪レベルだったらしい)そんなわたしを馬鹿にしたいのか緑間はわたしに掌を見せるようにして「待て」と言った。わたしは犬じゃないんだよこの葉緑体!


「これをやる。さっきおしること間違えて買ってしまったのだよ」


間違えるってどういうことだよ、おしるこはいつも左上って決まってるじゃないか。安定感がない緑間を心配した。そして緑間が手渡してきたのはココア。しかも、


「…飲みかけ、デスカ?」
「文句があるならいいが」
「え、ない!ないです!」


な、なんだか眼鏡の奥にとてつもないものを感じるんですがわたしだけでしょうか。助けを求めるように高尾を見ると、手を口元に当ててにやついていた。何この状況楽しんでんの?!さては昨日わたしが足引っ掛けようとしたことまだ根に持ってる…?!いやいやでもあれは結局鷹の目によって失敗に終わったじゃないか!済んだことは水に流して今は助けてほしいな!昨日の敵は今日の友ってやつだよ!っちょ、高尾に助け求めてる間に緑間がすんごい近づいてきてるんですけど!威圧感ぱねえ!


「飲め」
「…はい?」
「今すぐそれを飲め」


毒でも入ってるんじゃないかなこれ。緑間がこんなにごり押しするってそれくらいしか考えられないんですけど。きっと飲んだと見せかけて油断させる作戦なんだ。あ、今思い出したけどこの前緑間の眼鏡隠して遊びましたごめん。ほんっとごめんなさいすみません。もしかしたらわたしいろんな人に恨まれてるのかもしれない。それでも学校で毒物死なんてまっぴらごめんだよ。全力で断りたい、けど怖すぎる。断ったら断ったで殺されそう。わたしが助かる道はないのか。薄情者の高尾は論外として、逃走、攻撃、色仕掛け。…どれも通用しそうにない。特に最後、色気の"い"の字もないわたしがそんなことをちょっとでも考えたこと自体がミスだった。わたしは意を決してココアを飲むことにした。これが一番助かる確率が高い。


「い、いただきます…」


ぐいっと一思いにココアを喉に流し込んだ。あ、今思ったけどこれ飲むフリすればよかったんじゃないか。とはいえもう飲んでしまったわけだ、もうどうにでもなれとココアを飲み干した。あああもうすぐ毒が回って苦しくなるんだと思って目を瞑ったけど、しばらくしてもなんの変化もない。しいて言えばココアのおかげでおなかが暖まったということくらいだろうか。殺人未遂に終わった緑間は一体どんな顔をしているのかと見てみると、なんだか妙に満足気に眼鏡のブリッジを上げていた。え、どういうこと。わたしが困惑していると緑間はわたしの手からからおしるこを奪い去って一人早々に教室に帰ってしまった。今のは一体何だったんだ…


「高尾助けて、このままじゃ緑間に殺される」
「大丈夫大丈夫!頑張れ(真ちゃん…)!」

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