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これの続き。読んでなくても問題なし


今日は3月14日、ホワイトデー。いくら色恋沙汰には疎い俺でもそれくらい知っている。それに先月の同じ日、俺はチョコを貰ってしまったために今日は俺があいつにお返しをしなくちゃならない。正直こういうのは苦手だ。普段たまたま鞄に入っていた松風にもらったお菓子を渡すのなら恥ずかしさなんて微塵も感じないのに、改まって渡すとなるとこれがかなり恥ずかしい。ああだから俺はこういうイベントが嫌いなんだ。さっさと渡して早くこのイベントを終わらせてやる。


「おはよー剣城くん!」
「はよ。…これやる」
「え、あ、ありがとう!」
「ああ。行くぞ」


よし、渡した。俺は渡したぞ。達成感を胸に学校へ向かう…はずだった。突然後ろから腕を引かれた俺は前に進むことも出来ず、後ろに倒れそうになった。


「何だ」
「今開けるから待って」
「帰ってからでいいだろ」
「だーめ、今見たいの!剣城くん、お願い」


俺はこいつのお願いを断れたことがない。今回もまたこのお願いを許してしまうのだ。


「…一瞬だけだ」
「やった!ありがとう!」


この笑顔を見たいがために首を縦に振ってしまう。これが惚れた弱みか。俺がそんなことを思っているだなんて露知らず、なまえは包装に手をかけた。


「わー!ネックレス……ぷっ」
「気に入らなかったか」
「え、いや、そういうことじゃなくて、これを剣城くんが買ってくれたと思うと……っ、ふふっ」


あろうことか本人を目の前にして笑い始めた。俺がこれを買ったのがそんなに面白いか。俺だってあんな店に入るのも男一人でアクセサリーを見るのも二度とごめんだ。


「今つけていい?」
「学校で没収されるぞ」
「リボンで隠れるから大丈夫だよ。お願い!いいでしょ、ね?」
「…だから嫌だったんだ」


なまえがこれを気に入ることは分かっていた。何せ俺がなまえが好きなものを調べてから買ってきたものだ。気に入らないはずはない。そしてこれをつけたまま学校に行くようなことになれば、目ざとい狩屋なんかに見つかってまたイジられるのがオチだ。そしてそれに便乗した松風や西園あたりにもいろいろ聞かれるであろうことは容易に想像できる。

なまえはあげたばかりのネックレスを俺に差し出した。つけて、という言葉と共に。全く、お前はお姫様か。けれどネックレスなんてほとんどつけたことがないからなかなかうまくつけられない。


「わたし剣城くんがちゃんとお返しに"もの"をくれるとは思ってなかったよ」
「何をやると思ってたんだ」
「え、っと…キス、とか?」


顔が赤くなっていっているのがわかる。こいつは天然なのか。集中出来なくなって余計にうまくつけられない。早くつけて離れないと心臓も持たない。それから気まずくてしばらく二人とも何も話さなかった。原因を作っておいて黙るとはなんて無責任な奴だ。まあそんなこと前々から知っていることだが。


「出来たぞ」
「…ありがとう」


ゆっくりと振り返った。いまだに顔を赤くしているなまえはなんだかいつもより可愛く見えた気がした。それがいけなかった。俺は気づけばなまえにキスまでつけてお返ししてしまったようで、目を点にして動かなくなった。ちなみに俺にとってもなまえにとってもファーストキスである。


「…朝練に遅れる。行くぞ」


これがあの激辛チョコのお返しなんて割に合わないじゃないか。

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