少し広い1K。それが俺の今の家だ。実家を出て一人暮らしを始めて結構経ったが、まあそれなりにうまくやれていると思う。一人暮らしのおかげで料理も適当に作れるくらいにはなった。今もこうして朝飯の目玉焼きとウインナーを焼いている。用意した2枚の皿に盛り付けて完成。さてここで寝坊助を起こしに行くとする。
「おい、いつまで寝転がってるつもりだ」 「王子さまのキス待ち」 「ふざけたこと言ってっとシメるぞ」 「抱き締める?いやーんはじめ大胆」 「よし覚悟はいいな」 「お、起きます起きます!はじめの朝ごはん食べたいもんね!」 「お前の飯ねえからな」
それはひどい!とぎゃあぎゃあ騒ぐなまえはうるさい。そんなに騒ぐ元気があるなら早く起き上がって準備しろよと小言を言うも、なまえには全く効果なし。及川なら蹴りのひとつでもいれてやるのに、そうはいかないところがまたムカつく。
「はじめ、お腹空いて死にそう…」 「お前は起きてすぐ死ぬのか」 「お腹と背中が」 「くっつかねえ」 「くっつくかもしれない」 「そしたら医者に診てもらえ」 「優しい誰か…わたしをテーブルまで運んで…」 「それじゃ一生そのままだ」 「"い"から始まって"め"で終わる名前の人…」 「知らねえなそんなやつ」 「もーいじわる」
相変わらず甘えてくるなまえを軽くあしらう。これでも外じゃ案外しっかりしてるから不思議だ。なまえいわく「はじめといると素でいられる」そうだが、いくらなんでも素を出しすぎなんじゃないかと思う。まあ、俺しか知らないってのはちょっと優越感に浸れるところではある。
「早く起きろ」 「起きられませーん」 「じゃあずっとそこにいろ」 「わーいお休みだっ」 「起きろ」
ぶーぶーと文句を言いながら、もぞもぞと毛布を引きずってベッドから降りようとする。置いとけと言えば、また文句を言う。こいつは文句でできているに違いない。なまえがちゃんと座る頃には目玉焼きとウインナーは少し冷めてしまっていた。「早く食って準備しろ」とせき立てると、いただきまーす、と間延びしたあいさつをして食べはじめた。しかし、目玉焼きを口にしたなまえがじっとこちらを恨めしそうに見てくる。
「なんだよ」 「目玉焼きぬるい…」 「……あ?」
「「お前が起きてこなかったんだろうが!」」
見事にハモって、なまえはそれに爆笑している。絶対それ言うと思った!って、言わせたやつが何言ってんだ。なまえは一頻り笑って、やっぱり目玉焼きには醤油だねえなんて独り言を言いながら朝飯を食べ進めていく。相変わらず小さい一口だな。しばらくすると「あ、」と何か思い出したような声を漏らした。
「今日一限休講だった」 「はあ?!お前それもっと早く言え!」 「だって今思い出したんだもん」 「だもんじゃねえクソ」 「はじめご飯時にお下品だよ」 「飯下げるぞ」 「ごめんなさい」
今日そもそも俺は講義は午後からで、午前中はゆっくりする予定だった。立て込んでいた課題がようやく片付いて、やっとゆっくり寝れると思っていた矢先、突然のなまえの襲来と明日1限からだという言葉で早起きする羽目になったのだ。俺の睡眠時間を返してほしい。
「あークソ、もっと寝りゃよかった」 「ごめんってば」 「ったくほんとにお前は…」 「あ、そうだ!はじめ今日講義午後からだよね?」 「おー」 「じゃあ今から時間あるよね?」
ちょっと企んだような笑顔に思わずドキッとする。こいつ狙ってやってんのか?なんかムカつく。
「何だよ」 「おうちでお昼寝デートとかどう?」 「は?」 「今ならわたしの子守唄つき!」 「んなのいるか」 「なにをぅ!わたしの美声に酔いしれるがいい!」 「音痴がなんか言ってるな」 「はじめはこの美声を聞きながら眠れるなんて幸せだなあ」 「それ気絶だろ」
このあと朝ごはんを終えて、結局なまえの言うとおり昼寝することになった。午後の講義が遅刻ギリギリになったのは、なまえの寝顔が可愛かったからとでも言っておく。
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