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隣の隣のクラスのみょうじさんはほぼ毎日教室の前の方のドアを開けて霧野に会いに来る。俺の席は霧野の席より前なものだから、みょうじさんはいつも俺の横をすり抜けて霧野に会いに行く。それが堪らなくもどかしくて、俺は出来るだけそれを見ないようにとみょうじさんが教室に入ってくると机に突っ伏すことにした。それでも霧野と楽しそうに話す声が聞こえてくると俺の心は平穏ではいられなくなる。ましてやこの前たまたまみょうじさんが霧野とひそひそ話をしているのを見た時には気が気でなかった。

俺はみょうじさんが好きなのだ。霧野の幼なじみということで霧野から話はよく聞いていたが、初めて会ったときに人生初の一目惚れというものをした。それからしばらくして、みょうじさんが毎日のようにこの教室に来るようになった。初めは毎日みょうじさんに会えるのが嬉しくて仕方がなかった。けど暫くして気づいた。みょうじさんは俺じゃなく霧野がいるこの教室に来ているんだと。そう思ってからはなんだかばかばかしくなって、みょうじさんが来る時間になると自分の机にひとりでいるようになった。

決して霧野のことが嫌いな訳じゃない。寧ろ霧野は信頼している仲間であり親友だ。だけどみょうじさんと話しているあいつを見るとどうしても苛立ってしまう自分がいる。俺はそんな自分が嫌いだ。




* * *




今日もいつもの時間になった。俺はいつもどおり机にひとり突っ伏す。昨日遅くまで勉強していたせいか、煩い教室の中にも関わらず睡魔が襲ってきた。うとうとしていると、誰かに肩を叩かれて肩をびくりと揺らした。ついでに眠気もどこかへ飛んでいった。顔をあげると、霧野がいた。浅い眠りから覚めたばかりだというのに俺は妙に冷静で、霧野のそばにいるであろうみょうじさんの姿を探したが、彼女の姿はどこにもなかった。俺は安心した(残念に思う気持ちがなかったと言えば嘘になるが)。


「霧野か、どうした?」
「これ。なまえが神童くんに、って」


霧野が差し出したのは白い封筒だった。霧野がみょうじさんを名前で呼んだことに少し苛立ちを覚えつつも、しっかりとその封筒を受け取った。


「どうして…俺に?」
「読めば分かる」


じゃあまた後でな、と言い残して霧野は去っていった。みょうじさんが書いた手紙。それを今俺が持っているということだけで緊張してきた。手紙に封はしていなかった。封筒をそっと開けると、これまた真っ白な紙が出てきた。二つ折りにされたそれを震える手で開ける。ああ心臓が煩い。

手紙の内容は簡単なものだった。わたしは神童くんが好きです。大きな便箋にこの一文しか書いていなかった。俺は信じられなくて、目をぱちぱちさせてみたりこすってみたりしたけれどその一文が変わることはなくて、俺の気持ちももちろん変わらなくて。

勢いよく席を立った。手紙をポケットにしまって、隣の隣のクラスへ向かう。ああみょうじさんに会ったらなんて言おう。俺もずっと好きだったと言ってしまおうか。いや、それとも思いっきり抱きしめる方がいいかな。

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