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みょうじの姿がすっかり見えなくなったところでようやく腕が解放され、青峰の第一声は「お前を男と見込んで頼みがある」だった。表情からこんなにも本当はお前に頼みたくないという感情が伝わってくるのは変わっていないようだ。
「紫原にこれ渡しとけ!」
ポケットから乱暴に取り出されたそれは、「果たし城」と書かれたルーズリーフだった。
「書き直すことを勧めるのだよ」 「ああ?!せっかく書いたのになんか文句あんのかよ」 「文句というより、忠告だ。このまま渡せばバカ丸出しなのだよ」 「ああん?なにがおかしいんだよ」 「わかっていないところが恐ろしいのだよ。貸せ」
ルーズリーフを適当に折った簡単な果たし状を開いて、予想通りの内容に盛大なため息をついた。
明日来いバーカ!!!!!!!!
「……相変わらず相当なアホなのだよ」 「お前さっきから俺のことバカにしすぎだろ!」 「口答えしている暇があったら勉強することを勧めるのだよ」 「誰が勉強するか!」 「今からするのだよ」 「え」
青峰が逃げ出すよりも早く今度は俺が腕をつかんだ。みょうじの身体では逃げられまい。途端に青ざめるみょうじの顔はいつもの焦げたような青峰よりも顔色がわかりやすい。
「……いいか、まずこの"果たし城"という字自体が間違えているのだよ。これは一体どこの城だ。正しくは手紙という意味を持つこの"状"という字で"果たし状"なのだよ。それからこの内容。バカ丸出しなのだよ。貴殿との決闘を申し込む。何時にどこで待っている。などと書くのが普通なのだよ。決闘を申し込むのだから相手にもそれ相応の敬意を持つのが当たり前なのだよ。それからこの異常な感嘆符の数。一体何があったのだよ。最後に名前。名前がなければ誰が書いたかわからんだろう。もしこれを俺が紫原に渡していたら俺が紫原にこのバカ丸出しの果たし状を書いたと思われるのだよ。ありえん。あとこういうものは普通和紙に筆でかくべきであって決してボールペンなどで書くものではないのだよ。それから、」
「緑間、時間気にしてたんじゃ…」 「うるさい、話の途中なのだよ」
((帰りてえ……)) (おい、聞いているのか)
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