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確かに俺は下心がある。だけど何もここまですることはないと思う。なまえに頭を洗われながらうっすらと目を開いてため息をひとつ。目の前に広がる視界の白さに微かな希望すら感じられない。頭を洗ってもらうのは気持ちいいけど、それとこれとは話が違うじゃねえか。
「大輝、変なこと考えてる?」 「…考えてねえよ?」 「その間は何?」 「なんでもねえよ?!考えてねえし!!全然!」
なまえは男のロマンを完全否定する気だ。人質に取られている俺の息子が可哀想で仕方ない。大体身体が入れ替わるなんてことまず漫画でしかありえねえと思っていたけど、現実になった今、することといえばその"ありえねえ"と思っていたことだろう。温泉も行ってみたいし女子会なんかもいいな。なまえに言ったらフルボッコされるのは目に見えているから言わねえけど、これは別に俺だけが特別下心があるとかそういうわけじゃねえ。それになまえの身体ならまあ…一応付き合っているわけで、見たことはある。それなのに何をこんなに恥ずかしがっているのか俺にはよくわかんねえけど、力関係が逆転している今、俺がなまえに力で逆らおうとしても無理だ。とはいえ、見るなと言われれば見たくなるのが人間。ここは頭脳で勝負だ。見た目はなまえ、頭脳は俺、その名は天才青峰大輝!今日でアホ峰の汚名は返上させてもらうぜ!
「おい、目痒いからこれ外せ」 「我慢我慢、男の子でしょ」 「ガキ扱いかよ?!ってかマジで外せって」 「煩いなあもう。ちょっと待って、」
ジャーとシャワーの音が聞こえた。きっと手を洗うつもりだろう。よし、ここまではいいぞ、作戦通りだ。…って、え?は?なんかすげえ冷たい水しぶきが足にかかってるような気がするんだけど、なあ、手洗ってんだよな?そんな俺の心配は的中することになる。
「っ?!冷たっ?!?!!」
頭からかけられたのは冷水。しかも絶対温度調節の限界まで下げてやがる。真夏でもほとんど使わない温度だろこれ。犯人のなまえはけらけらと笑ってやがるけど、何も面白くねえよ?!黄瀬でもこれはねえわ!あ、でも黄瀬なら…まあ黄瀬は別枠だ。とにかくこれイタズラの域を超えてるからな?!
「急に冷たい水かけたら死ぬわ!お前俺を何だと思ってやがんだよ?!」 「性欲の塊」 「黄瀬と同じこと言ってんじゃねえええ!!」
俺って一体どんだけの奴に性欲の塊だと思われてんだろう。
(目痒くなくなったでしょ?) (目…(なんで今目隠し外さなかった俺!!!)) ((ふっ、アホ峰め))
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