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「さ、着いたよ」 「…ここ、か?」 「そうみたい…なにここ、」
「「でかっ?!!」」
月曜日、学校に行かなければならないはずの赤司くんに案内されて辿り着いたのは全国のセレブリティが集う超有名な避暑地、軽井沢。そのなかでも広い道路と綺麗に整備された庭園のようなものが広がるどうやら一等地とみられるところで、さらに他の別荘より一回りも二回りも大きいのが目の前の赤司家の別荘だ。ちなみに純和風。これが別荘というのなら、わたしの家は犬小屋。
「これが鍵だ。生憎使用人は置いてやれないけど、そこは二人でなんとかしてくれ」 「あ、ありがとう。わたしたちがこんな豪華なとこ使っていいの…?」 「ああ、国内にはここしかないんだ。ここが嫌なら海外になるけど」 「滅相もございません、ここに住まわせていただきます」
生憎パスポートなんぞ持っていやしません。それにこんな状態でどうやってパスポート申請できようか、いやできない。これじゃただのオカマとオナベのカップルだ。その上残念ながら英語も喋れないし他の言語なんてもっての他だ。ボンジュール、サランヘヨ、シェイシェイ。以上、わたしの知っている英語以外の数少ない外国語でした。
「じゃあそろそろ僕は行くよ」 「ほんとありがとね赤司くん」 「マジでサンキューな。助かったわ」
わたしたちの感謝の言葉のあとにさらっと「礼はいい」とかっこよくキメちゃうこのお方は本当何者なんだろうか。結局両親の了承を得れたのも赤司くんのおかげだし、こんな大きな別荘をタダで使わせてくれるというし、その上さらに先生たちにもうまく言っておいてくれるというのだ。マジ神様仏様赤司様。神様や仏様に順位をつけるのはよくないと思うけど、今なら断トツ赤司様がトップだ。
執事のようなおじいさんがドアを開け、颯爽と某高級車(庶民のわたしには名前がわからない)に乗り込む赤司くん。なんと絵になることか。
「もとに戻る手がかりがわかったらまた来るよ」 「何から何までありがとう」 「俺お前のこと見直したわ」 「見直す前はどう思っていたんだろうな」
あ、大輝自爆した。顔色が青峰。「ああそれとみょうじ、これ、」窓から出てきた手にあったのは四つ折りにされた紙。これがなにか聞くと、大事なものだから後で読んでほしいとのこと。赤司くんたってのご希望とあらば、と表彰状の授与ばりにご丁寧に頂いた。そして赤司くんの合図とともに黒いテカテカ車は学校へと向かったのであった。
帰り際に素敵な笑顔で手渡されたこの紙によって、後にわたしの顔が崩壊することになるなんて今のわたしは想像もしなかった。
(大輝、赤司くんって…) (ああ、いいやつだな…)
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