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「おーい大輝ー、開けてー」
お盆を片手に持って紅茶を溢さずにドアを開ける技量を持っていないわたしは大事を取って大輝に襖を開けてもらうことにした。我ながら賢い。少し待っていると勢いよく襖が開き、そこにいたのは黄瀬くんだった。大輝が差し向けたんだな。そうそう、大輝は筋肉痛で動けないんだった。あ、そうだ黄瀬くん!
「黄瀬くん!このマカロン可愛いね!」 「でしょ?!なまえっち喜んでくれると思ったんスよ」 「大喜びです、ありがとう!」 「いえいえ、どういたしまして」
黄瀬くんが手土産に持ってきてくれた紙袋にはそれはそれは可愛いマカロンが入っていたのだ。カラフルなマカロンはわたしの乙女心をがっちり掴んで離さない。さっきまでの黄瀬くんに対する態度とは打って変わって、歓迎モードに早変わりだ。手土産ひとつでころっと変わるわたしはなかなか単純なやつである。座卓にお盆を置いてふう、と一息。台所からこの部屋まで遠かったよ。
「これわざわざ買ってきてくれたの?」 「マネージャーさんがくれたんス。これ結構有名なところのなんスよ」 「へえ、すごい!」
毎日部活で女子高生らしいことはほどんどできていないわたしだけど、そこはやっぱり女子、甘いものと可愛いものには目がない。それに大輝とはこんなスイーツの話はできないわけで、やたらとそういうことに詳しい黄瀬くんと盛り上がるなか大輝がぽつりと呟いた。
「…んだこれまっず」 「え、大輝もう食べたの?!」 「青峰っち早いっスよ!」 「いいからお前らも食ってみろよ」 「…じゃあ、」 「俺も、」
大輝に促されて可愛いマカロンを頬張る。どうだよ、と言わんばかりにわたしたちを見てくる大輝。確かに大輝の言うとおり口の中に広がる味は、
「…まずい、なにこの救いようのないまずさ」 「だろ?!なにこんなもん持ってきてんだ黄瀬」 「イタっ!さっきから殴りすぎっすよ青峰っち!」
大輝が殴りたくなる気持ちがよくわかる。手土産にこんなまずいものを持ってくるなんてどんな神経をしてるんだろう。数ある食べ物の中からこんなまっずいものをチョイスするのって逆に難しいんじゃないの。ん、なに?突然入れ替わったわたしたちを笑いに来たのかな?そうかそうか、よおし、覚悟しろよ。
「黄瀬くん一遍死んで来い」 「すんませ、いぎゃあぁああああ!」
なるほど、大輝が黄瀬をよく殴る理由が分かった気がする。
(はーすっきり) (だろ?俺ももう一発いっとくかな…) (ひいぃいいい!)
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