2
わたしが散々帰れと言っても絶対帰らないと強情に言い張る黄瀬くんにある種の尊敬すら感じる。わたしならすぐに帰るね。帰って部屋に閉じこもってパソコンと親友にでもなってやる。さて、黄瀬くんに帰る気が全くないことがわかったところでずっと思っていた素朴な疑問をぶつけてみる。
「そもそもなんでわざわざ軽井沢まで来たの?今日学校でしょ?」 「今日は軽井沢で撮影なんスよ」 「より一層帰ってほしくなったよ」 「なんで?!」
撮影で学校休んで軽井沢に撮影に来るってあんた何様だよ。デルモ様か。わたしはデルモ様よりキナコストリートのヱルモ様のほうが断然好きだよ。あの赤いもふもふにダイブしたい。わたしの頭がヱルモでいっぱいになったころ、黄瀬くんは何かを思い出して鞄へダッシュした。そしてその隣にあった紙袋を恭しく差し出した。
「こ、これ!つまらないものっスけど!」 「つまらないものならいらねえよ」 「え?!嘘嘘!つまらなくないっス!」
大輝には日本人の謙虚さの美徳がわからないらしい。実際「つまらないものですが」というのは失礼に当たるらしいが。まあそこは駄犬、大目に見てやるとしよう。ふーんと半ば強引に紙袋を受け取った大輝からさらに流れるようにわたしがそれを奪い取る。なんと素敵な流れ作業。
「黄瀬くんありがとう。大輝、わたしがお茶入れてくるからここで待ってて」 「男と二人っきりかよ」 「帰ってもらってもいいけど」 「よし、帰れ」 「二人して酷いっス!」
ぎゃあぎゃあと言い争う二人を置いて、傍から見れば男女の言い争いだなあと呑気に考えつつ襖を閉めた。
(黄瀬テメェ早く帰れ) (なんでそんなに俺を帰らせたがるんスか?!) (ウザいから) (ストレートすぎて辛い!)
|