キセキコンビニ | ナノ



「みんなちゃあんとしごとしろっての!ね!」


今俺の目の前ではなまえが完全に出来上がっている。今日は大学の夏休みに入ってからめっきり会わなくなったなまえが突然火神くん飲みに行こう!と家に押し掛けてきて半ば強引に近所の居酒屋に連れられたのだった。よっぽどストレスが溜まっていたらしい。はじめは普通の近状報告だったのが、ビールを3杯ほど飲んだ辺りからなまえの暴走が始まった。バイトの話になり、そこから愚痴が止まらない。なまえは絡み酒がすごいのだ。そのくせ何も覚えていないのだからたちが悪い。


「ほんと、くろこくんもかげうすすぎーって!」
「黒子?黒子って黒子テツヤか?!」
「んー。そう」
「そいつ俺の高校んときのチームメイトだぜ」


ふーんと素っ気ない返事が返ってきたが気にしない。そもそも酔ったなまえが言う"くろこくん"という人物が黒子テツヤだという確証がない。


「あとねえ、あほみねとなのだよときょしんへーとわんことだいまおー!」
「青峰と緑間と紫原と黄瀬と赤司?!」


これは八割黒子で確定だ。なまえがつけたあだ名があまりにもあいつらの特徴を捉えすぎていて、すぐにわかった。それより、キセキの世代のやつらが同じコンビニでバイトしているなんて、どんだけ仲がいいんだ。黄瀬なんて芸能人として忙しい日々を送っているはずなのに、そんなところで油を売っていていいのか。俺が久しく会っていないかつてのライバルたちのことを懐かしく思っている間になまえは5杯目のビールを飲み干した。


「すいませーぇん!なまちゅーもういっぱあい!」
「バカ、お前飲み過ぎだぞ。二日酔いになっても知らなねーからな」
「っるさい!かがみくんものめのめ〜」
「俺はいいっつーの!お前送っていかなきゃいけねーんだから」


なまえがニヤリと嫌な曲線を浮かべた。これから発せられるであろう発言に嫌な予感しかしない。


「かがみくんのえっちー!わたしをおそおうとしてるんでしょお?!」
「バカ!誰がお前みたいなやつ襲うかよ!」
「たすけてー!かがみくんがわたしをおそおうとしてるよぉ!」
「だからしてねーっつってんだろ!!」


俺も多少酒が入っているので、自分が思っている以上に声が大きくなってしまう。意味の分からない被害妄想をしているなまえは俺が何を言っても襲われるー助けてーと大声を出すので、俺としては周りの視線が痛い。しばらくしてクレームが入ったのか、店員の人が慌ててやってきて「他のお客さまのご迷惑になりますのでもう少し声のボリュームを落として頂けますでしょうか」と言ってきた。これ以上飲むとなまえが歩けなくなる危険もあるのでちょうどいいと思い、店を出ることにした。その会計のときに割り勘すると言って聞かないなまえはやっぱり酔っていてもこういうところはちゃんと律儀だということに改めて感心した。のはいいが、出してくれた額が100円でどう反応すればいいのかわからなかったのも事実である。そのあと駅まで歩いていると、更に酔いが回ったなまえが道で寝ようとしたり、見ず知らずの他人に仕事しろよ!と突っかかったり…とにかくいろいろ大変だった。たまに聞こえるふくろうの鳴き声が俺を慰めているような気がした。結局なまえの家に着くころには3時を回っていた。なまえに鍵を開けさせてそこで帰るつもりが、無性に心配になって恐る恐るドアを開いてみると、玄関で倒れるように眠っているなまえの姿を見てしまった。結局ベッドまで抱きかかえることにして、酒臭いなまえをいわゆるお姫様抱っこした。本当にどこのお姫様だこいつは。


「かがみくん…さんきゅー…」


不覚にも可愛いと思ってしまった自分を殴りたい。いい歳した男女が部屋にふたりきり。よく考えてみればこれはシチュエーションとしては素晴らしいものだ。ただ…相手がなまえじゃなあ…一番仲のいい女友達のなまえに手を出す気にはなれない。というより、なまえは色気が…なんて本人に言ったらプロレス技のオンパレードになることは目に見えている。ひとこと言い残して、岐路に着いた。


「Good night.」



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