キセキコンビニ | ナノ



草木も眠る丑三つ時とはよくいったものだ。どうやら本当に眠っているらしい。さっきから誰一人としてお客さんが入ってこない。冷やかしでもお化けでもなんでもいい。ほんとトイレ借りるだけでもいいから誰かあの自動ドアを開けて。早く誰か来てもらわないと隣の店長が怖過ぎてわたしがお化けになりそうだ。なにも言わずにレジにたたずんでるだけでこんなに威圧感があるなんてどこぞの魔王様ですねわかります。とにかくなにかしてないと殺されそうなので手当たり次第掃除していたら、いつも掃除しないところまですごく綺麗になった。だが不思議と達成感は沸かない。むしろ手が滑っちゃったとでも言ってバケツの水をぶちまけてもう一回掃除し直したいくらいだ。そうすればしばらく掃除していられるじゃないか。ちらっと店長を見ると、あのオッドアイとこんにちはしてしまった。体が石化したように動かない。これがオッドアイの能力か。さあいつでも来てくれお客様。今なら心の底から言える、お客様は神様です。


「みょうじ」
「っはい、!」


死亡フラグ起立。


「頑張っているらしいな」
「え、あ、ありがとうございます」


礼。


「クセのあるやつばかりだから大変だろうけど、任せたよ」
「が、頑張ります!」


着席。

よくわからないが、死ぬのは免れたらしい。しかももしかして褒められたかもしれない。ちょっと、これはある意味死亡フラグ。人生最後のいい思い出ってこと?まだ死にたくないよお母さん。わたしが死の恐怖に怯えていると、待ちに待った自動ドアが開く音がした。いらっしゃいませ!といつもの数倍の元気よさで挨拶したが、その笑顔は一瞬で引きつることになる。…これは、ヤンキー(っぽくしているけど実はお仲間がいないと何も出来ない上に一人で店に来るときはただの青少年としてこの店では有名)の大軍!立ち読みしたりパンを握りつぶしたり目の前で堂々と万引きをしたり、人数が多いせいかいつもより大胆な行動である。なぜこのタイミングで来た。確かになんでもいいとは思っていたけど、それは店長とふたりきりという絶体絶命の状況をなんとかしたかっただけなんだ。わたしは君たちの命を心配するよ。なにもこんなに大勢で来て騒ぐ必要があるのか。怖くて店長を直視できないけど絶対にやばい。これはどうすればいいんだ。

どうする?
▼たたかう(ヤンキーたちを注意する)
▼ぼうぎょ(レジ裏に隠れる)
▼にげる(休憩室へ逃げ込む)

なまえは迷わずにげるを選択した!が、うしろからがっしり腕を掴まれてしまった。恐る恐る振り返ると、大魔王がそこにはいた。


「どこへ行くんだい?みょうじもしっかり目に焼き付けておくといいよ」


失敗した!なまえに精神的に340のダメージ!泣きそうになるのを堪えつつ、レジの裏に隠れながら拝見することにした。店長はそっとポケットからハサミを取り出した。見たこともない鋭利なハサミにぞっとした。相変わらず無茶苦茶しているヤンキーたちも尋常じゃないオーラに気付いたのか、ぞろぞろと店長のほうを向いた。が、一人だけわたしのことをガン見している。違う!わたしじゃない!店長店長!慌てて指を指すとようやく気付いたようで慌てて店長を睨んだ。わたしは死んでもそんなオーラ出せるようにならない。みんなの視線が店長に向いているなか、店長はその視線をものともせず、さらに凄みを増したオーラと不敵な笑みを浮かべて言い放った。


「好き勝手するのは自由だが、お前たちがそういうことをするというのなら僕はそれなりの対応をとらないといけないな(ハサミ)」


一気に凍りつく店内。怖すぎて体が動かないし声も出ない。ヤンキーたちも恐れをなして顔が真っ青になった。ドアに近い人から続々と逃げ帰って、全員がいなくなるまで自動ドアが閉まることはなかった。待って、置いていかないで、わたしをひとりにしないで!オヤコロモードの店長とふたりっきりにしないでぇえ!そんな心の声も届かず、さっきよりも酷い状況に陥ってしまったわたしはこれから朝までどうすごせばいいのですか神様。レジカウンターごしに店長の溜め息が聞こえて、心臓がびくんと飛び跳ねた。


「しばらく休んでいるから片付けておいてくれ」
「よろこんで!」


店長を怒らせないようにしようと誓った大学3年の夏。



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