キセキコンビニ | ナノ



午前6時45分。その時間緑間くんは絶対に店に出ない。何をしているかというと、聞いて驚くな…おは朝占いをチェックしているのだ。いや、正確に言うとチェックしているのだよ。何故緑間くんがあんなにおは朝占いに執着しているのかは知らないが、かなりマニアックなラッキーアイテムをいつも持っているあたり、相当な入れ込みである。今日も6時44分に当たり前のように休憩室に入っていった。そこから45分に始まるおは朝占いを見て、50分にはその日のラッキーアイテムを持って出てきた。おは朝占いが2分だとして、残りの3分で一体何が起こっているのかは永遠の謎である。この間これでもかとフリルをつけたワンピースを持って出てきたときは正直焦った。彼がそれを持っていることでなく、どうやって用意したのかということにだ。ちなみに今日のラッキーアイテムはだっこちゃんらしい。腕につけてちゃんとだっこちゃんとしての仕事を果たしている。それでも眉間の皺がいつもより深いのは順位が悪かったせいだろう。こういうときはそっとしておくに限る。


「みょうじ、今日のお前のラッキーアイテムはトーテムポールなのだよ」


いい人なのはわかっている。他の人と違って真面目に働いてくれるし(黒子くんは例外)、結構わたしのことを気遣ってくれたりする。変なラッキーアイテムさえ持たなければ至って普通のメガネ男子なのだよ。でもごめん、トーテムポールは持ちたくない。学校に行って引っこ抜いて来いって言うのか。緑間くんの厚意は残念だがやんわり断っておいた。

朝は忙しいが、よく働いてくれる緑間くんがいるのでそこまで大変ではない。お客さんのピークも過ぎ、もうすぐ交代の時間というときに緑間くんと二人でレジをしていると、突然女の子が言った。


「ママーあれ欲しい!」


可愛い女の子がお母さんにねだったのは他でもない緑間くんの腕についただっこちゃん。緑間くんは口を真一文字に結んだまま固まった。ここはわたしがなんとかせねば。


「ごめんね。これは売り物じゃないからあげられないの」
「でもほしいのー!かってかってかってー!」


駄々をこねだした女の子をお母さんは「お店のものだからだめなのよ」となだめた。すみません、これ私物です。それでもだっこちゃんがどうしても欲しいらしい女の子は泣き出した。子供独特の甲高い泣き声が頭に響く。これは騒音レベルだ。渡したいのは山々だが、あの緑間くんがそう易々とラッキーアイテムをあげるわけがない。ちらっと緑間くんを見ると眉間の皺がえげつないことになっていた。これはまずい、非常にまずい。他のお客さんもすごいこっちを見ているし、何よりわたしの頭も痛い。どうしたのものかと考えあぐねていると、緑間くんがだっこちゃんを腕から外した。そしてそれを…女の子に渡しただと?!


「持っていけ」
「緑間くん、でもそれは…!」
「いい。ほら、特別なのだよ」


ドラマさながらの感動だ。あのおは朝信者の緑間くんがラッキーアイテムをあげるなんて…しみじみと緑間くんの人としての成長を感じる。女の子はそれはそれは嬉しそうに腕につけて帰っていった。そして入れ替わるように引き継ぎの黒子くんと青峰くんが入ってきた。うん、今日は実に有意義なバイトであった。裏に戻って着替えようと思った矢先、下の方からみょうじと呼ぶ声がした。声の先には見たこともないくらい小さくなって震えている緑間くんがいた。


「なにしてんの緑間くん!」
「俺は子供が苦手でな…早く帰らせたくてラッキーアイテムを渡したはいいが今日の蟹座は最下位。ここから動くと俺には不幸しか降りかからないのだよ…」


上目遣いキタコレ。その目はあれだろう、だっこちゃんを買ってこいってことだろう。上目遣いの破壊力をまざまざと見せつけてくれた緑間くんのために女みょうじなまえ、一肌脱いでやろうじゃないか。


「わたしがだっこちゃんを持ってきてあげるよ!」


そう意気込んだ3分後にだっこちゃんを腕につけた緑間くんに会おうとは誰が想像しただろうか。



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