キセキコンビニ | ナノ



ここのバイト仲間は前々から思っていたのだが、なんというかフリーダムだ。自由すぎる。勿論目の前の彼も例外ではなく、バイト中だというのに堂々とおかしをむさぼっている。ちなみに2メートル越えの紫の巨神兵である。それでも可愛いと思ってしまうのは彼の少し子供っぽい言動や行動からだろう。最近わかったのが、彼目当てで来るお姉さま方が大変多いということである。ファンクラブなんてのもありそうなレベルだ。しかも彼女たちはいつもご褒美と言う名の餌付けをして帰る。一応バイト中なのでそういうものは受け取ってはいけないことになっているとは思うのだが、紫原くんはなんの躊躇いもなくありがとーといつもの調子で受けとるのだ。紫原くんのお菓子が尽きない理由はこれかと思ったのが5日前。今日は紫原くんの更なるフリーダムさを実感している。


「紫原くん、それ倉庫から取ってきたお菓子だよね?」
「うん」
「それは食べちゃいけないと思うんだけど…?」
「俺は特別にいいんだしー」


それは小学生の発想だよ紫原くん。予想外の返答をしてくれた紫原くんに言葉を返せないでいると、彼は再び倉庫に向かってしまった。このままじゃこの店からお菓子が消える。というより、紫原くんによってこの店は経営破綻を迎えるだろう。このことを店長は知っているんだろうか。悶々と考えているとご自慢の長い腕にこれでもかとたくさんのまいう棒を抱えた紫原くんが帰って来た。遠慮の欠片もない。そしてそれを私物とみられる紙袋に入れて準備完了。いつもの紫原くんの出来上がりである。尽きないお菓子の秘密はこれか。巨新兵恐るべし、まさか着服していようとは。あの店長の目を盗んでそんなことをする勇気があるならもっと違うことに活かしたほうがいいに決まっている。


「なまえちんも食べるー?」
「い、いや…遠慮しとく」
「なまえちんなら特別にいっぱいあげるよー、向こうにもまだあるし」


それは紫原くんのストックじゃなくてお店としてのストックだろうと言いたいのを我慢してお腹いっぱいだからと誤魔化した。わたしも着服の共犯にされて血祭りにあげられたくはない。しかし、残念ーと言いつつまいう棒を食べる紫原くんは残念ながらかわいい。わたしはこんなかわいい紫原くんを内部告発するほど冷血な人間ではない。複雑な心境で隣で美味しそうにまいう棒を頬張る彼を母親のような気持ちで眺めていた。もう何個目かわからないまいう棒の封を開けて口にしたとき、明らかに彼の顔色が変わった。眉間に皺まで寄っている。これじゃリアル巨神兵じゃないか。ちょ、こっち睨まないで!怖い!…んん……ごっくん。死闘の末なんとか飲み込んだらしい。


「なにこれマズすぎー。こんなんがバイト代とかありえねーし」
「うんうん、ただの巨神兵なんて……え?」
「なにー?」
「え、紫原くんのバイト代って…それ?」
「当たり前だし。なまえちん違うの?」


わたしは(がっつり)お金で貰ってるよと言えば紫原くんはたいそう驚いた顔をした。とりあえずスライディング土下座したい気分だ。着服の疑い…というかもはや確信を持ってすみませんでした。

しかし、よくよく考えればこの時間の時給は1時間980円、それを全部まいう棒に使ったとして単純計算すると98本。普通1時間に98本も食べるだろうか。これはきっと紫原くん次第で損得が決まるんだろう。それにお菓子はまいう棒だけじゃない。この前ポテチを食べている姿も目撃したし、うん、得をしていると願いたい。


「紫原くん、いっぱい食べてね!」
「言われなくても食べるしー」


今日も今日とて、うちのフェアリーは元気です。



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