キセキコンビニ | ナノ



「ありがとうございました」


お会計を済ませたおばあさんににっこり笑ってお辞儀をすれば、一人で大変そうだけど頑張ってねとおばあさん独特の可愛らしいくしゃっとした笑みを返された。わたしも将来はこんな風に可愛らしいおばあさんになりたいと切実に思う。しかしそんなことを悠長に考えている時間は今のわたしにはない。時間が時間なだけにレジはやたらと混むのだ。忙しければ忙しいほど時間が経つのが早く感じるからそれはそれでいいとして、今日は如何せん忙しい。長年のバイトで培った高速レジ打ちを惜しみ無く発揮しても、次から次へとコンビニへ入ってくるお客さんにレジが追い付かない。コンビニでこんな長蛇の列の列を見ることになるとは。やっぱり一人でこの量はツラいよ!…ん、一人?


「すみません、レジに全然お客さんが来ないんですけど」
「ひぃいっ!」


いい加減慣れてくださいといつものポーカーフェイスで言い放つ黒子くんがわたしはちょっと苦手だったりする。だっていきなり現れるなんて心臓に悪いじゃないか。今まで生きてきたなかで失礼ながら影の薄さなら断トツナンバーワンだろう。なんせ今の今まで一人でいる気分だった。そういえばおばあさんにも一人で大変そうだけど頑張ってねって言われたな。おばあさんごめんなさい、実は二人でした。

とりあえず一ヶ所に集中したお客さんを分散させるべく黒子くんの集客には期待できないので今しているレジを黒子くんに任せて、お次お待ちのお客様どうぞーと声を張った。するとどうだろう、今黒子くんがお会計をしているお客さん以外ぞろぞろとこっちに来たではないか。ちょ、これじゃ意味ないんですけど!


「うしろのお客様、向こうのレジもご利用いただけますよ」
「え、セルフですか?」


どうやらそう見えるらしい。黒子くんにレジ打ちを期待するのを諦めて、品出しをしてもらうことにした。彼にはぴったりじゃないか。その分の負担がわたしに重くのし掛かるのはこの際仕方あるまい。マイペースに品出しをする黒子くんに少し憎しみを感じつつ、営業スマイルを振り撒いて高速レジ打ちをするわたしは相当出来る人間だと思いたい。

これでわたしと黒子くんの時給が同じだというのだから、世知辛い世の中である。



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