キセキコンビニ | ナノ



わたしが働くコンビニ「Miracle」では一般のお客さんには決して言えないことがある。それは今をときめく芸能人、黄瀬涼太がアルバイト店員として働いていることだ。本来なら芸能人として活動している黄瀬くんがこんな一介のコンビ…うわぁあ、寒気が…ゲフンゲフン。このように立派なコンビニエンスストアだとはいえ、アルバイトをするなんてのは事務所としてもよろしくないとは思うのだが、そのあたりは店長の差し金らしい。本当に店長の人間関係(主従関係)には驚きを越えて恐怖さえ感じる。わたしの今日のシフトは黄瀬くんと一緒だからいろいろな意味で疲れることは目に見えている。なんせ黄瀬くんはちょっと感覚がおかしい。


「なまえっち〜おはよース」
「おはよ…う。黄瀬くん、それで変装したつもりなの?」
「え、ダメっスかね?」
「明らかにダメでしょう」


今日も黄瀬くんは大きなだてメガネをかけただけという危機感の全くない格好である。それはわたしがすっぴんで近所のコンビニに行くときの定番スタイルだ。芸能人である黄瀬くんの変装用としてはあまり適しているとはいえないと思う。だってそんなスッカスカなメガネじゃ黄瀬くんのイケメンオーラを閉じ込めることなんてできない。わたしはもう慣れたから大きな犬にしか見えなくなったが、そりゃあ一般の人からすれば「誰このイケメン…はっ、これは今をときめくモデル兼俳優黄瀬涼太くん!サインしてください握手してくださいいいい!」「え?!本物の黄瀬くん?!きゃあぁああ!」という反応を示すのも当たり前だろう。わたしはそんな女の戦争に巻き込まれるのはごめんだ。とりあえずマスクが一番広い面積を隠せるだろうから、調理のときに使うマスクをとりに裏へ行こうとすると、キラキラした笑顔の黄瀬くんに止められた。


「なまえっち見て見て!」
「もーなに…」
「俺は人事を尽くしているのだからバレるはずがないのだよ」
「ぶふっ」


不意打ちだ。よりによって緑間くんをパーフェクトコピー…!あ、やばいつぼった。ひいぃ笑いすぎてお腹痛い。そんなわたしを見て黄瀬くんはまだあるんスよとニヤリ。これ以上腹筋崩壊させてどうするつもりだ。


「僕に逆らう奴は親でも殺す」
「お、おや…オヤコロ!!!」
「へへっうまいっしょ!」
「お腹痛すぎ…っ、ははっ…は……!??!!」


ものすごい殺気を感じた。それは黄瀬くんも同じのようで、顔を真っ青にしてがくがくと震えている。やっぱり犬だからそういうことには敏感なのだろう。見間違いじゃなければ垂れた耳と尻尾が生えているような気がする。かくいうわたしもこんなに強い殺気にあてられたのは初めてで、黄瀬くんに負けず劣らず震えている。店長は今日休みのはずなのに一体どこでこのやりとりを聞いていたんだ。この店絶対盗聴器とか仕掛けられてるよ。あ、防犯カメラも絶賛作動中だった。考えれば考えるほどバカなことをしてしまったという後悔の念しかわいてこない。店長、誠に申し訳御座いませんでした。


「黄瀬くん、」
「はいっス」


防犯カメラに向かって土下座。



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