嘘と放屁

検事調べは退屈で、同時に刺激的でもあった。眼鏡をかけた偉いおじさんが、華子に対して質問を投げかける。クスリの入手先とか何だとかかんだとか。それに対して華子は、これ以上にないほど神妙に答える。内心そっぽを向いて、腹を抱えながら笑って。笑って。笑って。

嘘をつくのは物事を有利に運ぶため。それと復讐。罪悪感は、あまりない。それよりも早く、ご飯が食べたかった。それと煙草。

椅子から立ち上がると、貧血のせいで耳の奥から鼓動の音がした。生きている証。

「おい、大丈夫か?」

検事に声をかけられて、大丈夫ですと言って、そのまま部屋を出た。それから三時間、待合室で待たされる。コーラが飲みたい。華子はそれだけを考えて、三時間を過ごした。

ようやく留置場に帰るためのバスに乗り込むと、一足先に罪人が乗っていて、華子はそいつに笑いかけてみた。男は驚いた表情を見せたあと、少しだけ笑ってくれた。すると華子は急に馬鹿馬鹿しくなり、窓の外に視線を移した。そのうちバスが発車して、景色を見ているとだんだん気分が良くなった。脳が気持ちいい。バスはものすごいスピードで走りぬける。華子の思考も、ものすごいスピードで移り変わって行く。取り留めのない考えに耽っていると、留置場に着いた。しぶしぶバスを降りて、留置場に向かった。するとさっきまでの目まぐるしい思考は見る影もなく衰えていった。

「華ちゃん、おかえりなさい」

振り向くとおばさんが笑ってた。だから華子も笑い返した。おばさんが笑ってると、華子も何だか嬉しかった。殺伐とした神経が、これ以上にないほど緩んでいく。緩みっぱなしの神経のまま、あっという間に晩飯の時間になった。時間の感覚がおかしい。これもクスリの後遺症なのだろうか。

晩飯のアジフライを口に運ぶと、生臭い風味が口いっぱいに広がった。不味い。のろのろと咀嚼していると、「新入りだー」という看守の声と共に、綺麗な女がやって来た。女は細い手足を行儀良く揃え、生き生きと笑ってる。あ、こいつも薬中だなって、直感的に思った。どことなく冷めた目でそいつを見ていると、女はブツブツと独り言を言い始め、誰かと交信し始めた。そばに居たおばさんは恐怖におののき、顔を引きつらせた。

「あなた、名前はなんて言うの? 」

おばさんがそう言うとそいつは、まるで子供のように足をバタつかせた。そしてアジフライを「美味しー」と言いながら手掴みで食べ、勢いよく放屁した。あーあ、可愛い顔が、台無しだ。

「ねえあんた、ちょっと煩いから静かにしてくんない?おばさんが怯えてるじゃん」

華子が寝起きのような低い声で言うと、女はああん!?と凄みをきかせてきた。華子がそのまま黙っていると、おばさんが静かな声で語りかけた。

「名前はなんて言うの?」

「ナオミです!」

「そう…ナオちゃん。いくつなの?」

「31!」

まるで小さな子供をあやすみたいに、おばさんが優しく問いかけるので、徐々にナオミの目がとろんとしてきた。そのままぼんやりとし、ナオミは眠りに落ちてった。華子とおばさんは、一仕事を終えたみたいに顔を見合わせ、ため息をついたのだった。


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