白い天空

 コインが弾かれたような音を合図に、明かりが灯って目が覚めた。眩しさに目をこすりながら周りを見渡すと、既におばさんが布団を畳んで行儀良く座っていた。華子もおばさんにならい、布団を畳んで隣に座った。

「よく眠れた?」

「はい、お陰様で」

 おばさんがひまわりのような笑顔をふりまいたので、華子も思わず笑顔になった。看守がやって来て、部屋の中を点検し始める。点検が終わると、掃除用具を渡されて部屋の掃除をした。華子は箒を手に持ち、畳の上をはいた。箒を使うのは学生以来なので、少しぎこちなくなってしまった。箒ではいた後からおばさんが雑巾で畳の上を拭いている。なんだか学生時代に戻ったみたいでおかしかった。

 最後にトイレを磨いて朝の掃除が全て終わると、朝食の時間になった。四角い使い捨ての弁当箱に白米と納豆と漬物とおからが並び、茶色いお椀にはインスタント味噌汁が注がれている。華子はしじみの味噌汁をすすりながら激しい睡魔に襲われた。半分ほど食し、あとは全て残して畳に横になった。

 華子がまどろみかけた時、看守に煙草の時間だと告げられた。

 廊下に連れてかれ、華子は飢えた野獣のように煙草を受け取ると、物凄い勢いで火をつけた。煙を吸いこむと、とたんに溢れる多幸感。白い天空に天使の微笑みを仰ぎ見た華子は、頭が澄み切っていくのを感じた。あっという間に根本まで吸い終わり、名残惜しそうに吸い殻をバケツに捨てた。

 煙草が吸い終わると、不毛な時間が過ぎていった。毛布を一枚あてがわれたので、それに包まり、こんこんと眠る。もう警察から逃げなくても良いという諦めに似た安心感が、白いもやのように華子の体にまとわりついて離れない。眠るしか、ないのだ。昼食の弁当がやってきても華子は目を覚ますことはなく、まるで底なし沼にはまるように眠り、ついには夕方になった。

「ずっと寝てばかりだけど、あなた大丈夫?」

「大丈夫です、ちょっと疲れてるみたいで」

 華子は笑ってみせたが睡魔は津波のように差し迫り、呆気なく瞼は閉じられた。結局その日は朝食以外、何も口にすることはなかった。

 深夜、ふいに眠りから解き放たれた華子は、これまでに感じたことのない空腹感にさいなまれた。喉もひっついてしまうほど渇いているし、三日月すら食べてしまいたい衝動に駆られた。今、何時なのだろう。窓から差し込む光が幻想的で、留置場の中とは思えないほど美しい。隣を見ると、おばさんが寝息をたてて気持ち良さそうに眠っていた。まるで母親のようなその寝顔を見ながら、華子は朝を待ったのだった。



[next#]
[戻る]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -