※年齢↑1


 縁側に腰掛けて脚を揺らしていると、突然喜八郎がわたしの太ももの上へ頭を置いて昼寝を始めた。「おい」と喜八郎の前髪をかきあげてやると、額にうっすらと汗をかいていた。手を取って見てみると、指先は汚れ、爪の間にまで泥が入り込んでいる。穴を掘っていたらしい。
「まったく、おまえには呆れるよ!」
 わたしのため息など全く気にすることもなく、寝息をたてはじめた喜八郎の額を軽く手で張る。ぴしゃり、と一発。それでも目蓋は閉じたままで、生温い夕焼け色の風に長い睫毛が揺れた。
「……七松先輩たちが卒業してもう半年もたった。喜八郎、信じられるか?」
 信じられないよなあ、今日も七松先輩の声が聞こえたような気がするし。ここまで来ると病かな、ははは。とわたしの乾いた笑いだけが辺りに響いて、ぽかんと開けた口を虚しく閉じた。
 手拭いを出して喜八郎の汗を拭き取って、乱れた髪を手でとく。まるで自分がこいつの母親になった気分だった。でも昨年までは委員会でもこんな役割でやっていたし、そしてそんな世話焼きな自分も好きだったりするのだ。
「それにしてもあの先輩方は意外にあっさりした方たちばかりだったな。最後に門を出るとき、誰が名前を呼んだって振り返りもしなかっただろ」
 先輩の後ろ姿と今日のような夕焼けを思い出して、「まだ寂しい気がする」と呟いて、また喜八郎の頭を撫でた。もうこの寂しい気持ちは埋められることもないからと、全部忘れさってしまったと思っていたのに。ぶり返した思い出に胸をぎゅっと握られて、誤魔化すように自分の前髪をはらった。
「滝夜叉丸」
 喜八郎の呼ぶ声に視線を下へ動かす。ぱっちりと冴えた目玉がわたしをじっと見ている。おまえ、狸寝入りをしていたな。
「あの人も寂しいと思っていたらいいのにね」



120308/二人の悲しみでありますように

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -