わたしは恋人に好かれているという自覚がある。
好きだと告げられたことがある時点である意味保証はされているものだろうけれど、それを踏まえた上でだいぶ愛されていると思うのだ。
すっかり寒さも薄らいだ春先、待ち合わせした場所にたどり着いた真乃はそこに恋人の姿を見つけた。
「赤也くん」
携帯を眺めているその人に声をかけると、赤也くんはすぐに顔をあげた。わたしが「お待たせ」と言うのと、彼が笑顔を浮かべるのはほぼ同時だっただろう。真乃、と弾む声色はそこにある感情をわかりやすすぎるほどに表している。……嬉しそう。
つまりは、こういうところだった。態度とか、声とか、表情とか。そういうもの全部がまっすぐな想いとして自分に向けられていて、そうとわかるたびに真乃の心を柔らかいものでくすぐっていく。
元々この人は年上にかわいがられがちというか、色んな意味で世話を焼かれがちな立場にあることもあって子供っぽい印象がある。だからこんな風にされてしまうと、同い年の真乃ですらこう思ってしまうのだ。――かわいい、と。
「早いんだね? ちょっと前まで遅刻ばっかりだったのに」
「う、それは過去の話だろ。いや、正直今後も寝坊はするかもしれないけどよ……」
「待ち合わせは来てくれれば多少は許してあげられるけど、学校や部活の練習は気をつけないとだめだよ」
部活、と言うと赤也くんはぶるりと体を震わせて苦い顔をした。テニス部の先輩は厳しい人が多い、とよく愚痴を聞かされるが、怒られたときのことでも思い出したのだろう。
「気をつけまーす。っていうか、デートの待ち合わせこそ遅刻できねぇっての」
「もし夜更かししちゃったら、寝る前にそう連絡してくれればわたしもゆっくり出かけるけど」
別に怒りはしないんだけどな。元は休日なのだし、昼過ぎから出かけるのでも構わないわけだし。
なんてことを言っていると、大きく首を振って否定された。
「いい、いい! そんなことしなくていいって!」
「そう?」
「そうなの! ……だって」
早く来たら、その分多く遊べるだろ。幼い仕草と子犬のような目で言われたら、真乃からはそれ以上の言葉など出なかった。ああ、かわいい。本当にかわいい人!
「ふふ」
「……んだよ、俺だけかよ」
「ううん、そんなことないよ。わたしも、いっぱい一緒にいられてうれしい」
拗ねた顔が華やいだ笑顔に変わると、その勢いのままに手を握られる。
「よしっ行こうぜ!」
「うん!」
ぎゅっと握り返した力を合図に二人で歩きだす。
これからもこうやって、二人一緒に過ごしていくのだろう。お出かけして、たまには家に呼んで、夜は電話を繋いで。愛されてるなって思うたびに愛しさを感じて。
そうやって積み上がっていく時間が少しでも多ければいい。そんなことを願いながら。
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